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2006年8月27日 (日)

人が育つ会社をつくる

「人が育つ会社をつくる」-キャリア創造マネジメント- 高橋俊介

企業で人が育ちにくくなっていると感じている人には気になる本です。調査データを分析しながら、現状を明らかにして、対策を考えていきます。

なぜ、人が育ちにくくなっているのでしょう。それはビジネス環境の急激な変化が関係していると著者は述べます。昔ならうまくいったことが21世紀の新しい経済には適合しないということが、現象として人材育成の分野にも現れていると。

2007年問題もありますが、本当に心配しないといけないのは、「ホワイトカラーの人材が育たず、企業の競争力が弱まること」ではないか。

成果主義が槍玉に上げられたり、利益優先で人員削減で教育まで手が回らないと言われるが、人が育たない本質はもっと根の深い問題である。

2007年で退職する団塊の世代の暗黙知が伝承されないと言うより、システム全体が複雑化して、目に見えるハードではなく、目に見えないソフトのブラックボックス化が進み、全体を把握して直感的に判断することができないような分野が増えていることの方が直接的な問題ではないか。

また、人が育たないという原因には若者の意識の変化がある。他人にコントロールされることを嫌い、自意識が高く自分のキャリアは自分が作っていくと考え、会社に入っても成長実感が得られないと見るや、簡単に会社を辞めてしまう。

一方、中高年の場合は、変化に対応できない柔軟性のなさが人材の成長を妨げている。企業の変化は激しく、ある日突然、アウトソーシングされたり、海外の資本が入って急に英語が必要になったりというキャリアショックを受ける。キャリアチェンジに対する適応能力に欠ける人が多く、ミスマッチが起こって組織が不活性化する。

さらに中高年と若者の間の「バブル入社組」も、ピラミッド組織の中で突出して仲間が多いため、本来であれば部下を持ってマネジメントしながら自分が成長する時期にそのポジションにつけないでいる。管理職に昇進する以外に成長の機会がないまま40代になったら、残り20年でいったいどんなキャリアを築けるのだろう。

本書は、慶応義塾大学SFC研究所キャリアソースラボラトリーが、多くの企業や人事担当者と研究会を行い、その結果を披露してくれている。

中身を少し紹介しておこう。(少し長いです)

1.    OJTの崩壊

組織がこれまでのようなピラミッド型のときは、自分たちの部に配属された新入社員は5年先、10年先も同じピラミッドで上限関係が維持されたので、じっくり腰を据えて育てようというモチベーションが持ちやすかった。ところがプロジェクト型組織に移行すると、そこでの上司と部下の関係はせいぜい半年から1年の一時的なものにすぎなくなり、部下を育てるモチベーションが以前より下がる。また、派遣社員や期間限定雇用の専門職社員、アウトソーサーといった非正規社員の増加・活用が与える影響も大きい。非正規社員の増加した人員構成では上司が部下を育てるという構図は育たない。

フラット化の進展もまた、指導伝承型OJTを困難にしている。新入社員も、5年生も10年上の先輩も同じ階層に位置することになる。そこには肩書きによる明確な上下関係がないから、それをベースとした先輩の「厳しく鍛えてやろう」という意識が薄れてしまう。

さらに新卒の中断、職場の高齢化で、仕事を引き継ぎ、教えることで先輩社員も成長したのに、その機会が奪われただけでなく、何年経ってもエントリーレベルの仕事をやらなければならず、新卒の中断は2重の意味で若手の成長を妨げている。

現在では強い絆のネットワーク(ピラミッドの強固な組織)より弱い絆のネットワークになっており、かえって重要な役割を果たすことがある。そこで有効な研修がOFF-JTである。

日本企業はOJTに重きを置くきらいがあるが、海外企業では、①OFF-JTをきちんとやってくれる。②年齢や国籍に関係なく実力と意欲があれば昇進できる。③ロイヤルティや上下関係の気配りによる意味のない残業で、アフターファイブの自己啓発の時間を奪われないこと。が人材育成に熱心な会社と思われている。

2.    若者たちの思い込みと焦り

若者のコミュニケーションスタイルの変化も育成を妨げる一因である。若者は相手の懐まで踏み込んで厳しいことを言い合うようなコミュニケーションスタイルは先ず見られない。幼少時代からコミュニケーショントレーニングをしてこなかったと言える。

また、組織の求めるキャリア概念と若者が考えるキャリアイメージの乖離も問題だろう。若者は経験不測から来る思い込みで、自信の偏狭なイメージで安易にスペシャリストを志向したり、職種名で転職探しにこだわったりする。

3.    IT化とグローバル化

IT化が進み、個人の仕事がブラックボックス化されたことも、序列組織で人が育つことの阻害要因となっている。以前だったら、先輩社員が電話でタフな交渉をしているのを、後ろの席で後輩がそれとなく聞いていて「ああいうときは、こういうふうに言えばいいのか」と直接教えられなくても自然と学ぶことができた。ところが電話がメールに変わった。ITで仕事をするようになると、かつてのように大部屋にいて同じ空気を吸っているだけでいつの間にか成長していくという環境が失われてしまった。もちろん、ITが多様な人々と開放的なネットワークを形成して物理的な制約や障害がないコミュニケーションを作り出していることも事実である。

昔に戻れと言うのではなく、IT化の時代・新しい環境にあった、より効果的な人材育成方法が求められる。

今後は、企業にとってダイバーシティ(多様性)が求められるだろう。これがIT時代のキーワードかも知れない。

4.    求められる能力の変化

企業の求められる能力が変化してきているのが、縦序列の指導伝承型のOJTが機能しなくなった最大の原因かもしれない。

現代は、必要とされるスキルがどんどん変化し、新しくなっている。ところが序列組織の中で上が下を教えるのが唯一の仕組みだと、上司が常に勉強をし続けないかぎり、部下は必要な新しいスキルを覚えられないことになる。

最悪なことに、日本の会社においては、偉くなるほど勉強しなくなる傾向にある。

変化の激しい時代では、教える立場になったときから、陳腐化が始まっていると思って間違いない。逆に、重要な意思決定こそ自分たちの仕事なのだから、思想や哲学といった形而上学的なものを学ぶことが大切なのであって、末端の具体的な技術など知らなくてもかまわないと思っている役員もいるだろうが、これはとんでもない誤解である。

このように教える人が不勉強で陳腐化したスキルしかもっていないと、スキルの変化が早い時代には、上下序列の指導育成は機能しない。

5.    指導命令型から抜け出せない悪循環

日本のホワイトカラーは、先進国中飛びぬけて、自己啓発に時間とお金を投資しないとしばしば指摘される。これにはいろいろな理由が考えられるが、やはりいちばん大きいのは、上下序列による指導スタイルが、自分で勉強する自己啓発となじみにくいからであろう。上司は、「自分が教えているのだから、言うとおりにしろ」という気持ちが強いので、後輩が勝手に覚えたことなど評価したくないと思っているし、それどころか、隠れて資格を取ったりすれば、「会社を辞めるつもりか」と、日本では裏切り者扱いされない。また、組織が適応を超える同化を要求するので、教えられるほうは何も知らないという白紙の状態であることが半ば強制されることや、マネジメントが管理的、さらに会社に拘束される時間が長く、勉強する時間が捻出できないというのも、自己啓発を妨げる要因となっている。

しかし、縦序列のOJTが機能を失いつつあるこれからは、むしろ社員の自己啓発を支援する仕組みこそが大事になる。

日本企業では研修投資に対する誤解も多い。米国などでは年間40時間ほど研修に当てており、日本では考えられないほどの長さである。日本では研修で人が育つと考えていない人が多い。研修の席に呼ばれた役員が「私も研修を受けたけど、役に立った記憶はありません」と平気で言ってしまう。

最近顕著なのは、投資型育成の施策を提案すると、すぐに投資効果を明確にしろと言ってくる企業が増えたことだ。人材育成の効果を図るのは簡単ではない。なぜなら人の成長要因というのは、決して単一ではなく、何がその人を成長させたかという因果関係を特定すること自体、あまり意味があることではないからだ。すぐ効果の現れる、目の前の仕事に必要なスキルを獲得させるためだけの経費的育成にしか予算を割かなくなってしまう。

投資対効果にうるさい米国ではどうしているのだろうかいう質問を私も何度か受けたが、結論からいえば、そういう質問を経営陣がするようでは、そもそもその会社は人材育成にコミットメントしているとはいえない。

*********************

本書では、以上のような現状分析のあと、どうしたら若手社員が成長するのか、また、ケースを上げて多様な成長パターンを示したり、人材育成の仕組みを述べていきます。

人事部員だけでなく、部下を持つ人、部下を評価しないといけない人、後輩をどう指導するのか悩んでいる人などに是非読んでほしいです。

人が育つ会社をつくる―キャリア創造のマネジメント Book 人が育つ会社をつくる―キャリア創造のマネジメント

著者:高橋 俊介
販売元:日本経済新聞社
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