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2006年9月30日 (土)

算数の発想

「算数の発想」  小島寛之

これは、面白い!久々の快感本。算数の問題もたくさん例が出てきてちょっと難しいけど、すごくわかりやすい解説で納得です。数学のようにxやyを使った代数ではない、算数のつるかめ算や旅人算などの考え方が、実は先端科学の考え方につながっていて、宇宙の膨張の発見から、アインシュタインの相対性理論の基本にまで話は広がります。

著者は、東大の理学部数学科を出て、数学者を目指し、数学を教えながら、現在は、経済学者になっている人なので、本書でも、算数の仕事算から、現代経済の成長や10年不況までをマクロ経済学で解説してくれており、まさに本書のクライマックス部分です。(ここをクライマックスと思うかどうかは、経済学部出身とか、株などで経済を勉強している人かも知れませんが)

内容をちょっと紹介します。

ガウスという天才数学者はご存知の方と思います(ガウス賞を先日、日本人が取りましたよね)。ガウスのエピソードで、10歳の時に、小学校で先生がちょっと休憩を取るために、「1から100まで足してみなさい」と言って、生徒に計算させようとしたところ、ガウスはほんの数分で回答をしてしまいました。今では、1から100までと、逆に100から1までを並べて、二つを足して2で割ることは、ご存知の方も多いでしょうが、こんなガウス算も、現代では意外なところで活用されています。

金融商品に詳しい方ならデリバティブ商品でリスクヘッジをしている場合に、例えば、現物株を保有していて、株価下落からその価値を保有しておきたい場合に、指数先物で売りポジションを購入して下落リスクをヘッジしたりしますよね。これって、まさにガウス算の考え方です。

次に私がクライマックスと感じた仕事算とそのバリエーションのニュ-トン算と経済成長理論についてです。仕事算の中学入試問題に次のようなものがあります。

「水の入っていない水槽に蛇口ABと排水口Cがついています。

    ABは開けてCを閉じると、6分で水槽がいっぱいになります。

    ABCをすべて開けると、9分で水槽がいっぱいになります。

    最初、ABは開けてCを閉じ、4分後にBを閉じてCを開けると、合計8分で水槽がいっぱいになります。

(1)水をいっぱいにしてから、ABは閉じてCを開けると、何分で水槽の水はなくなりますか。

(2)BCは閉じてAを開けると、何分何秒で水槽がいっぱいになりますか。」

受験でなければ考える気力が起きないようなめんどうくさいシチュエーションです。小学校で習う仕事算を理解しておかないと解けません。これは問題の込み入った状況を何らかの方法で整理整頓できるかが鍵です。ABが仕事をする人、Cが邪魔をする人で、その仕事量、邪魔する量を計算していくことになります。

もうひとつ大切な算数としてニュートン算があります。ニュートンが牛が食べる牧草と牧草が新たに生えてくる量を考えたことから名前で、これも仕事算の一種です。入試の例としては、「ある水族館では、開館したときに60人の行列ができており、その後毎分4人ずつ増えていきます。入場口が一つのときは、この行列は10分でなくなります。この入場口では、1分間に何人の入場ができますか。」このニュ-トン算を解くためには「なぜ行列がなくなるのか」に注目する必要があります。新たに人がやってくるのだから、単位時間当たりに新たに並ぶ人より入場できる人が多いから行列がなくなっていくのです。入場口の仕事量を考えると、60人を10分でさばけるのだから、1分当たり6人の仕事をしています。さらに1分間に4人ずつ増えてもそれをさばいているので4人の仕事量も加わります。だから、答えは10人ということになります。

仕事算は、もともとは経済社会をモチーフにした問題だそうで、経済学がこの考え方が生かされていることは何の不思議もないことで、経済成長理論がもっとも重視する指標の経済成長率はまさにこの考え方がでてきます。

本書で、目を見張らせるのは、この前まで日本がマイナス成長、つまり生産される富(仕事量)が前年に比べて減る、という歴史上まれに見る現象を解説してくれることです。経済成長率と仕事算、ニュートン算はどういう関係にあるかというと、「流入」と「漏出」のメカニズムがかなり似ていることにあります。マクロでみると、インプットした量より、アウトプットされた富の方が少ないと言うことです。

私たちは通常生産した富の大部分を消費しますが、一部は消費せず、とっておく部分があります。個人としては、将来や病気に備えて貯蓄に回します。みんな意識はしていませんが、消費されない生産物がストックされ、次なる生産のために活用されることになります。(個人からみれば、銀行に預金していたお金が企業貸出に使われ、投資という形になります)そして、この貯蓄=投資によって生産設備が拡充され、次年度の生産される富が増えることが経済成長です。

バブル崩壊後の2000年から2001年にかけて日本の経済成長率はマイナス0.6%とという驚くべき低水準でした。この原因については、経済評論家でもいろいろ議論されていますが、本書では、著者がうなったという理論を紹介しています。ここに仕事算の考え方が入っているのですが。

マクロ経済学者の林文夫とエドワード・プレスコットの論文の考え方です。林氏によれば、新聞や雑誌に掲載される景気低迷の論議は、およそケインズ経済学に依拠した需要の不足に原因を求めているようで、およそ3つに要約できるそうです。

第一は、クレジットクランチ説。これは不良債権を抱える銀行部門が金融仲介機能を果たせず、設備投資に資金が回らないというもの。

第二は、財政政策が十分に景気を刺激しなかったことに原因を求める説。

第三は、日銀の金融政策の失敗。三重野総裁のもとでなされた高金利政策の解除遅れに原因を求める説、です。

しかし、林氏はこれら3つとも不適当だとします。ケインズ経済学では需要の不足による景気低迷は、長期的に価格の調整を通じて解消されることになっていますが、ここまでの長期低迷は想定外です。また、政府も日銀は90年代には景気浮揚の政策を行っていますし、政府も景気刺激策を相当とっています。クレジットクランチ説も、投資が減退していないといけないはずですが、実際の投資は、対GDP比で80年代と変わっていないそうです。

それでは、果たしてその原因は。

林氏は90年代に起きた次の2つに注目しています。全要素生産性(TFP)の成長率が減衰したことと、1人当たりの労働時間が1割減ったことです。TFPというのは技術水準を表す指標で、これが大きくなると同じ仕事量で大きな生産量が実現します。90年代には何らかの理由でTFPが成長するスピードが遅くなったと考えています。また、1988年の労働基準法の改正で、休日が増え日本の労働量は約10%減っているとのことです。

(私見ですが、90年代の日本は、それまでの成功体験から逆に産業構造の転換やIT分野への進出の遅れやITを使った仕事の仕方がうまくできなかったので、生産性が伸びなかったのではないでしょうか)

林=プレスコットモデルを信頼するなら、国家の経済成長に重要な寄与をするものは、労働効率の成長率ということになります。要するに、労働者の技能や知識がどのように向上していくか、あるいは、同じ労働と資本からもっと大きな収穫を生み出すような技術革新や公共インフラや社会制度が同蓄積されていくか、それが肝要ということです。

算数の話から、経済理論へと展開しましたが、この本の面白さがわかっていただけましたでしょうか。

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