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2006年10月29日 (日)

日本の「戦争力」

「日本の戦争力」  小川和久

10月27日の新聞に、政府は北朝鮮の核実験が確認できなかったと発表しました。政府は、米国が大気中から放射性物質を検出したことや韓国の情報を踏まえて、可能性が高いとしただけで、核実験が行われたといえる確実に証明できる客観的なデータは得られなかったとして、核実験が行われたという断定は避けました。

北朝鮮は何をするかわからないと思っている人は多いと思います。そのとき、日本はどんな対応力があるのでしょうか。隣国の核実験も確認できない情報収集能力しかないことが、今回の事件ではっきりしたと思います。そんな国の防衛力はどうなっているのか。その一端でも手がかりにしようと手にしたのが本書です。

本書は2005年の出版ですから、この前の北朝鮮の核実験の前兆もない時期に書かれたものですが、北朝鮮に対する分析も鋭いもので、最近のニュースを見て少しずつわかってきたことが深く書かれており、今読んで十分すぎる内容であり、返って今だからこそ、現実の身として本書がわかると言えます。

また、安倍政権となって、米国と同様な国家安全保障会議構想がありますが、著者は既に本書の中でその構想を述べています。現状では、テロ対策にしても管理が横断的にできていないからでしょう。北朝鮮が東京にノドンをぶち込んでくることを警戒するだけでは不十分です。(最近のニュースで消防庁がJ・ALARTという地震やミサイル攻撃を瞬時に伝えるシステムを来年度から運用するとしています。私もあるセミナーで消防庁のシステムの説明を受けましたが、自治体が設置している防災無線放送に、「ミサイル着弾まで、後何分です。至急、建物の中に非難してください」というプレゼンビデオを見せられました)ただ、北朝鮮が張りぼての戦力でミサイル戦を挑んでくるだけではないはずです。拉致問題でもわかる通り、工作員が福井県などの原子力発電所を攻撃するだけでパニックになるはずです。まして、夏に東京でクレーン船が鉄塔にかかる電線に接触し、東京から神奈川にかけて半日停電になりましたが、接触事故で電車が止まったりと大変だったわけですから、テロリストや工作員が本気で電力停止を狙った場合、はかりしれないダメージを受けることになるはずです。病院などの自家発電装置も、何日も復旧しないことを想定はしていませんので、発電用の重油がなくなれば、入院患者で死んでいく人が続出するはずです。さらに言えば、工作員が日本に来なくてもサイバーテロ攻撃というものもあります。各企業もサイバーテロに備えていますが、各施設などさらに重要な施設はもっとサイバー攻撃に備えているはずです。しかし、米国では、原子炉の制御を不能にするのに、ハッカー出身の専門家は9分しかかからなかったケースがあるそうです。政府機関も企業も同じでしょうが、ホームページを作成したりする外部とネットで接続している担当部署にいる人なら、絶えず、中国などから攻撃を受けていることをご存知なのではないでしょうか。テロリストが本気でサイバー攻撃を仕掛けてきた場合、どこまで日本の社会基盤を守ることができるのでしょうか。

日本の最近の防衛費は年間5兆円弱。ロシア、イギリスとそう変わらず、中国、フランスと並んで世界有数の金額です。(中国政府の発表は信じられませんが)

05年度の防衛費は、4兆8301億円のうち、人件費・糧食費は2兆1562億円で、全体の44.6%にあたります。さらに施設整備費1368億円、営舎費・被服費など1080億円、基地対策費4973億円、その他支出費が837億円。純粋に軍事力の整備に使うことができるのは装備品など購入費9000億円、研究開発費1316億円、訓練活動経費8097億円の合計1兆8413億円にすぎません。この限られた防衛費で整備できるのは、「中ぐらいの国」の軍事力が精一杯です。

自衛隊の場合、問題はそれだけではないそうです。戦力の中身だそうです。実は日本の自衛隊は軍隊として均整のとれた総合力を備えているとは言えず、たいへんバランスの悪い軍隊なのです。例えば、海上自衛隊で考えれば、タイ潜水艦能力は世界トップクラスですが、それ以外の能力は備わっていないに等しいのです。航空自衛隊も「単能空軍」の色彩が強く、防空戦闘能力は世界トップクラスの実力ですが、長距離の航空攻撃の能力はありません。

なぜ、対戦能力と防空能力だけが世界トップクラスで、それ以外ないに等しい軍事力は、同盟関係にある役割分担としての米国の希望に沿った戦力なのです。

第2次世界大戦当時の軍国主義への反省と米国の要請によってパワー・プロジェクション能力のない自衛隊となったわけです。パワープロジェクション能力とは、「数十万規模の陸軍を海を越えて上陸させ、敵国の主要部分を占領し戦争目的を達成できるような構造を備えた陸海空の戦力」だそうです。

空挺団というのがあり、自衛官を輸送するのですが、全機フル稼働でも1度に1500人しか運べないし、そもそも空挺団の実員が1500人もいないという状況だそうです。戦争では兵站が重要ですが、それも全然不十分だそうです。(兵站部門がないというのは、太平洋戦争時のマレーシアでの死の行軍が思い出されます)

日本の戦闘能力も知らずに、立派な軍隊だからという議論や、憲法9条問題を語ることはできないといいます。真の力を知らずに語る国会議員が多くいることは確かでしょう。

ただし、日米同盟で自国を防衛しているので、在日米軍の事実を見逃すわけにはいきません。日本が米国を必要としている以上に、米国の世界戦略からすると日本は米国の最重要同盟国です。世界最大と呼べる事実として、燃料や弾薬がどれだけ日本にあるかに目を向けてみると、燃料では、横浜・鶴見、佐世保、八戸に大きな燃料基地がありますが、燃料の備蓄量については、アメリカ本土東海岸が当然1位ですが、鶴見は、アメリカ本土を含めても米軍第2位、佐世保は第3位です。また、ミサイルや爆弾の備蓄量も圧倒的です。広島県内に3箇所の弾薬庫がありますが、ここの3箇所だけで、日本の陸海空自衛隊の弾薬すべてより多いのです。世界最大・最強の米国第7艦隊の陸上弾薬庫は佐世保であり、ここを守る空軍の中隊は全世界に展開する部隊の中で最大の弾薬整備中隊であるとされています。

燃料や弾薬だけでなく、地球のほぼ半分を舞台とする第7艦隊の旗艦ブルーリッジは横須賀が母港です。その戦力の中心、空母キティーホークももちろん横須賀が母港です。米国の艦隊に母港を提供している国は日本以外にはありません。それはハイテクの塊となった現代兵器を整備できる技術を提供できる国はそんなにないこともありますが、第7艦隊によって、日本の存在を支えているともいえます。

自衛隊の貧弱さに比べ、米軍の力が大きなことがわかります。北朝鮮のミサイル攻撃にビビッてしまう我々ですが、もし、日本に性能の悪いノドンを打ち込めば、トマホークミサイルだけでも3000発程度を打ち込めるように配備されています(トマホークだけでですよ)。トマホークは、湾岸戦争やイラク戦争でも証明されていますが、時速700キロで、GPSと地形照合装置を使い、地上数十メートルを飛び、ピンポイントで目標を攻撃します。このほかにも地対空のパトリオットミサイルも地対地に使用でき、相手の発射ポイントに攻撃できたりします。

北朝鮮の空軍もクラシックな戦闘機があるだけで、制空権はありませんし、陸軍にいたっては、第2次世界大戦で使われていた戦車まで使っています。普通の国なら博物館で見られるくらいでしょう。

北朝鮮が、6カ国協議を拒否して、米国と取引したいというのは、とにかく米国に攻めないで欲しいといっているのです。ノドン1発で数千発のミサイルを受けてしまえば、何週間、国が持つかというより、何時間持ちこたえられるかの話になってしまうのです。

当然、北朝鮮は何をするのかわからないので、玉砕戦で日本にミサイルを撃ち込むかも知れませんので、多数の命が奪われる可能性があるのですが、それ以上に北朝鮮が致命的な反撃を受けてしまう仕組みができていることは、日本人として知っておく必要があると思います。

本書は、事実と数値データを使って物を考える著者の考え方などがよくわかる本なので、ぜひとも一読いただきたい本です。

日本の「戦争力」 Book 日本の「戦争力」

著者:小川 和久
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2006年10月28日 (土)

本を読む子は必ず伸びる

「本を読む子」は必ず伸びる!  樋口裕一

中学受験をわが子に抱えるために読みました。うちの子は国語の中でも物語を題材にした問題が不得意です。漢字や論説文ならOKでも、物語の問題は、これが答えだというものがわからずに困っているようです。確かに、論説文は文章の中に答えがありますが、物語は、文章に書かれていない心の機微などを行間から読み取らないといけません。うちの子は、テストにはなんでも答えがあるものと思っているようですが、小説などでも作者の気持ちなんて、本当の気持ちがわかることは不可能ですし、読者に対して複雑な気持ちを伝えようとする書き方もあり、これが絶対正解であるとはいえないはずなのですが、テストでは無理やりひとつが正解とされるわけで、子供にとっては、算数のように納得できる正解とはいいがたい物となります。国語力とは計算力や暗記力と違い、はっきりはかれるものではありません。

さて、この難問に親としてどう取り組めばよいのか、藁をもすがる思いで読んだわけです。

1.個人的な悩み事を中心に本書を紹介します。

「計算や暗記が得意なのに成績が上がらない理由は?」

算数でも文章題になるととたんにわからなくなることがあります。文章題が難しいのは、数式を言葉に置き換えている点です。文章には式が出てこず、現実的な状況が書かれています。ここから、いかに背後にある定義を読み取り、計算式に結びつけるか。もちろん実際に答えにたどりつくには、たぶん数学的センスが必要ですが、国語力がある子なら文章の意味するところを正確につかむことができるはずです。私の子の場合も、読み解こうとする前にあきらめているのかも知れません。

2.読む力も考える力も「読書」が育てる

国語力はあらゆる科目において国語が底力になるわけですが、その国語力はどうしたら養うことができるのでしょうか。国語の授業をしっかり受けていれば大丈夫なのでしょうか。残念ながら、それでは十分とはいえないといいます。国語力つまり日本語を自在に操る力を見につけるには、日本語で書かれた文章にたくさん接して、カンを磨くしかないといいます。そこで著者が提案するのが「読書」です。国語力を身につけるには、先人が残した数多くの文章に接して母語に対する感覚を磨いていくしかないのです。本に接しながらの「慣れろ式」の学習法を今こそ見直すべきだと思うと。

たとえば、「今年の夏が暑い」ではなく「今年の夏は暑い」が正しい言葉遣いですが、助詞の用法が身につかない例は頻繁です。主語・述語の関係が理解できない子もいます。こうした文法の間違いを説明し、理屈を理解させるのは非常に難しいものです。頭でわからせるようにするより、まず文章に慣れさせることが肝要です。本をよく読んでいる子は、日本語のルールが自然と体に染み付くのです。

3.本気で勉強を始めたとき、本気で読む子の伸び方はすごい!

読書力はたしかに国語力を養ってくれるが、すぐに効果が現れるものでないことに気がつかないといけません。小学生時代の読書は「近い将来への投資」という側面が強いのです。国語力の有無で本当に学力に差がつくのは、実は中学に上がってからなのです。でも、本を読むことは、ひとところに座って、ひとつのことに集中する行為です。知らぬ間に、集中力や忍耐力が養われていくのです。これらの力は長丁場である受験勉強に欠かせないものです。

最近は国語に力を入れ始めた学校も増えてきており、子の傾向は大学受験でも同様で、東大、京大なども二次試験では記述式に重きを置いています。私立中学受験が入試問題のスタイルを変える方向にあるのは、受験に強いだけでなく、入学後に伸びる子を欲しがっているのです。

4.インターネットでは絶対に太刀打ちできない本の効用

小学校でも、調べ学習はインターネットに頼ってしまうことが多いのですが、インターネットは断片的な知識ですが、本は知識の集合体です。ネットと本は知識を得る意味合いが違います。知の全体像を一気に吸収できるから、本は1冊丸ごと読むことに意味があるし、子供の知性を育てるのに役立つのです。

5.本を読む子は、やっぱり心も豊かな子

本を読むことで、さまざまな「力」が互いに絡み合い、子供の頭の中に網目のように広がります。これは、子供が生きていくうえでの命綱のようなものです。今の子供たちは知らなさ過ぎることが問題です。本で主人公の悲惨な人生を追体験し、心が痛まない子はいないでしょう。悲しい、こわい、孤独といった感情を知り、人生や人間、自分自身について考えます。本は痛みがわかる子、真人間を育てるのです。

読書はいいことなのはわかりますが、どうすれば子供に本を読ませられるのでしょうか。

親はためになる本(文学作品など)を読ませたくなりますが、この匂いを子供は敏感に感じ取ります。押し付けられるような感じで、読みたくないと思ってしまうのです。子供が好きな本でいいのです。はまらせるためなら、少々のうたい文句もOKです。本好きにさせるのに、先ず必要なのは、子ども自身が楽しいと感じ、自発的に読書という行為を楽しんでいくことです。そして子供本人が読みたいと思う本を読ませるために、本屋なり図書館なりに連れて行き、自分で選ばせることが大切です。いずれにしても、本屋、図書館へさりげなく子供を連れ出し、「本にはたくさんの種類があるんだ」「面白いことだ」という印象を持たせることが肝要です。

さらに、本を読むのが当たり前の環境をつくるには、先ず、親が本を読む姿を見せないで、子供に本を読めというなといいます。(しかし、私なんて、相当本を読んでいる姿を見せているんですけどね)

子供が本を読んだらそのフォローも必要です。読み終わったなと思ったときに感想を聞いてあげるのです。大切なのは「一緒に本の話をしよう」という態度です。子供がどんな感想を述べても、まずは肯定してあげましょう。チェックを入れたり、干渉することは厳禁です。

著者の言うことはよくわかりました。でも、私の子供は学校と塾で本を読む時間もないのです。どうしましょう。

「本を読む子」は必ず伸びる! Book 「本を読む子」は必ず伸びる!

著者:樋口 裕一
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2006年10月22日 (日)

いきいき ロハスライフ!

「いきいき ロハスライフ! LOHAS」 イデ トシカズ

LOHAS本が店頭に多く並んでいますが、イデさんも何冊か出しているので、一度読んでみようと思っていました。

イデさんの面白いところは、20代でミュージシャンとなり、その後、シリコンバレーで音楽制作ソフトを作っていた中で、LOHASな生活をしていたそうです。シリコンバレーでは、LOHASに触れたというか、LOHASが普通だったそうで、日本に帰ってきてから、また音楽を始めながら、LOHASプロデューサーとして活躍している人です。

アメリカでは、西海岸を中心にLOHASというライフスタイルが広く受け入れられており、トヨタ・プリウスを買うのに数ヶ月待ち、ヨガやピラティスなどがヒット、また、豆乳や豆腐人気、そして、肉を食べないベジタリアンが増加しており、レストランでもオーガニック&ベジタリアンメニューが充実しているそうです。イデさんは、シリコンバレーでエンジニアまた経営者として生活をしている中で、自然と、朝5時起きで、ヨガ、瞑想、自転車で出勤、ベジタリアンになっていったそうです。決してイデさんが特別だったわけではなく、周りを見渡してもそんな生活を送っている人は普通だったようで、アメリカでのLOHASを実感したと言います。

LOHASのコンセプトは、単に省エネやエコ生活の方法を説明したり、サプリメントの話題を提供するものではなく。自然と調和するシンプルでナチュラルな「LOHAS的価値観」を持つことで、自分の内面や視点が変化し、自分の人生や生活が「よりイキイキと輝く」ことが大事だと思っていると言います。

今の日本では、好むと好まざるに関わらず、横並び社会から自己責任社会へのパラダイムに移行しつつあり、お金を儲けて競争に勝つことが「勝ち組」であるとステレオタイプの成功を煽る風潮もあります。しかし、ヒルズ族などが脚光を浴びる一方で、90年代に入って、金銭的、物質的にいくら充足しても幸せとは限らない、それより、ワークライフバランスを見直して、自分なりの精神的にも豊かで幸せな暮らしを手に入れようという流れを起こりました。その結果、精神世界系の本などがベストセラーとなったりしました。そして、今、21世紀型のライフスタイルとして、ココロとカラダがストレスの少ないバランスととれた状態になるLOHAS生活を実践するようになってきました。

本書では、イデさんがアメリカで体験してきたことをもとに、いろいろなLOHASが紹介されています。LOHASに詳しい人なら知っていることも多く書かれているのでしょうが、私としては、たとえば「ファイトケミカルス」などいう言葉を本書で始めて知りました。(生活習慣病やガンの原因となる活性酸素の活動を抑える力のある坑酸化物質が植物や野菜に豊富に含まれていることがわかっており、その物質をファイトケミカルスと呼びます)

まあ、こんな言葉からベジタリアンの増加がわかるような気がします。ただ、本書ではアメリカ人が肉食をやめている理由としては3つの大きな理由があると書いています。①肉食は、人間の健康にとってよくないことがわかってきたから。②肉食は、地球環境の破壊につながるから。これは、地球温暖化の以外に大きな原因は牛の大量の排泄物やメタンガスです。また、熱帯雨林を牧場化するための破壊も信じがたいスピードで進んでいます。わずか25年間で中央アメリカの熱帯雨林の38%がアメリカ人の胃袋を満たすための牧草と化してしました。ちなみにオーストラリア北東部の熱帯雨林の80%もすでに伐採され牧場化されており、そこの牛は日本の消費者のためだそうです。③肉食は動物愛護の精神に反するから。(アメリカ人らしいですね)

アメリカ人の26%がLOHASな生活をしている一方で、ここ数年、より多くのガソリンを消費するSUVに乗り、より広い家に住むようになってきている事実もあります。環境を大切にしないといけないことは、頭でわかっていてもできない人が多いということですね。(これは、日本でもそうですよね。)だからといって、環境問題の不安を煽るだけではダメだといいます。人々が実際に反応するのは、仲間の行動、直接の説得、効果的なコミュニケーション、魅力的な優遇措置だといいます。これらの要因によって行動への心理的な障害を回避することになり、そのときに人々の信念と行動が一致するものとなると。

また、LOHASがクールと感じる人が増えるためには、かっこよい人がLOHAS的であることも重要だと。

いきいきロハスライフ!LOHAS-ココロとカラダと地球にやさしい生き方 Book いきいきロハスライフ!LOHAS-ココロとカラダと地球にやさしい生き方

著者:イデ トシカズ
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2006年10月21日 (土)

超「格差拡大」の時代

「超「格差拡大」の時代」  長谷川慶太郎

タイトルを見ると、今流行の格差問題を考える本かと思いがちですが、本書は、マクロな経済分析から、国家間の格差や企業間の格差などを述べたものです。もちろん個人の格差にも言及されますが、社会学としての格差問題ではなく、経済学として述べられているだけですので、お間違いないように。

たぶん、著者の意向というより、出版社の意向で「格差」という言葉をタイトルに入れたのでしょうね。

現在、デフレ脱却論議があり、太田大臣は、デフレ脱却したかどうかはもう少し判断を待ちましょうとしていますし、尾身大臣は、デフレは脱却したなんていったりしていますが、それは、日本経済を見ての話です。本書では、世界経済を見渡すと、基調としてデフレであるとの見方を示しています。

逆にデフレであることにより、マネーが世界経済を回り、経済成長を促しているとの見方です。最近、原油価格がやっと下がってきましたが、それでもずいぶんと高値です。著者は、原油価格が上がっても、インフレ要因にはならないとしています。

著者の現状認識としては、21世紀は米国が唯一の大国であり、米国主導の一極支配体制が続くとしています。中東では紛争はありますが、世界全体を通じていえることは大規模な戦争は一切発生しておらず、その兆候すらないとの認識です。今の米国の世界最強の軍事力に対抗して、米国と軍事的な衝突をあえて試みようとする政治勢力、あるいは国家は存在しないとします。米国の軍事技術は相当優れており、湾岸戦争でのイラクのソ連製戦車戦を例に挙げます。ソ連製戦車の射程距離の外から、米国戦車が砲撃し、しかもすばらしい命中精度で、しかも劣化ウラン弾でソ連製戦車を打ち抜いてしまいました。米国は相当の軍事予算で他国の追随を許さない軍事技術を持ってしまっています。そしてその軍事力を支える経済力もあるわけです。当然、世界最大の経済大国なわけですが、それだけでなく、ニューヨークという世界最強のきわめて充実した機能を持つ「金融センター」があります。国際貿易をとれば、世界全体で5兆ドルを超える年間貿易取引の決済のうち、実は95%以上がニューヨーク決済です。ユーロ決済や円決済といっても、現実の決済市場はニューヨークなのです。

世界のマネーはニューヨークに集まってきます。デフレ基調の時代では、特に余裕資金の蓄積という形で、短期資金が大量に滞留し、かつ運用先を求めて漂流します。その短期資金を引きつけ、運用の場を提供できる「金融センター」はニューヨークだけであり、他にはその機能に十分に耐えるだけの力がないのです。

世界全体が米国の力を背景に長期の平和を持続するということは、経済活動は国際化してしまい、それぞれの国の経済活動が急速に交流を強めることになります。戦争経済化では、ヒト、モノ、カネの流れは国境で阻止されるのが普通です。しかし、長期に渡る平和が維持されるという国際環境では、すべての活動がグローバルに広がっていくのです。しかも、大切なことは、この経済活動の国際化は、必然的に民間企業相互の間でのすさまじいまでの販売競争を激化させます。21世紀が進行する中で、これらはより激しく、かつまた全面的に展開することはほぼ間違いない状況であると。

さらに、この状況に輪をかけているのが、BRICsの台頭です。これらの国々はロシアを除き、膨大な人口を持っています。BRICsは発展を遂げているとは言え、多くの人口がまったく国際競争力のない質の低い農産物を生産するしかない農民が多いのです。彼らは、少しでも所得を増やすために、都市部に集まり、低賃金もいとわず、経済活動に参加しようとします。したがって、BRICsからは、世界市場に向けて労働集約型の消費財が大量に供給されることになります。その結果、相次いで安価な消費財が先進国の市場に流出され、それによって、さらに世界的な消費者物価の停滞、あるいは下落を誘発する要因となっています。BRICs諸国だけでなく、経済状態の悪いアフリカ諸国などは、さらに低賃金労働を享受せざるを得ない状況となります。

このような経済基調が定着してくると、在庫など余分なモノを持つことは許されません。デフレによる値下がりによって損失が発生するからです。設備投資にしても、リースにしてモノを持たずリースを使うとかにします。そして、当面使い道のない余裕資金が滞留するというパターンが生まれます。そのマネーを吸収しているのがニューヨークの金融センターというわけです。そしてニュヨーク金融センターに集まってくるマネーにより、国際規模のパイプライン敷設工事などの世界規模の大型プロジェクトが行われることになります。また、投機マネーとして各種国際商品(非鉄金属からコーヒー豆まで)の相場を左右してしまうことになります。

長々と現状認識を述べていますが、それでは日本はどうなるのか。

結論から言うと、「日本の一人勝ち」が始まるということです。

発展途上国や中心国の低賃金労働者によって価格破壊が進みます。たとえば、薄型テレビは2年ほど前は日本の独壇場でしたが、今や、韓国だけでなく、中国でも生産し、低価格品がでてきました。このような状況の中で必要とされるのは、技術革新と設備投資です。デフレに対応するには、技術水準を今後も向上させて、品質、性能に格段の際をつけ、新鋭の設備と高度な技術を製品化するほかはありません。新たな設備投資を行い、旧来の設備を更新することはいまや絶対の条件です。

(このあたり、安倍内閣の方針と同じですね。イノベーションや設備投資に対する税制改革などですよね)

鉄鋼業などは、中国を初め海外勢が鉄の量産をしていますが、日本ではすさまじく設備更新が行われ、高級品は日本のものです。

また、原油価格の値上がりも日本有利に働いています。同じものを生産するのに使用するエネルギー量においては日本は格段に少なくてすむ技術を持っています。日本は米国より技術水準が高く、省エネでもはるかに大きな成果を上げています。それを端的に特許の国際収支です。日本は特許においてあらゆる国に対して黒字になっています。外国に払う特許料は年間5800億から6000億円に対し、収入は1兆3000億円もあります。

ただし、小泉さんが進めてきた改革をさらに推し進めることが必須とします。行政部門の改革を推し進め、国際情勢変化にきわめて機敏に、かつまた的確に対応する行政を持ち合わせる必要があります。

(このへんも、行革に対して面従腹背する官僚を意識して、安倍内閣が官邸主導をすすめることと同じですね)

ただし、日本の官僚制が解体させるくらいにしても、現実の金融市場が国際水準のように安定した状態になるまでは、今後10年間は低金利が存続されるだろうといいます。

著者は、デフレ基調は21世紀中、おそらく変わることはないと確信しています。日本の制度改革は一朝一夕ではいかず、日米の金利格差についても、米国に追いつき、米国への資金移動が止まるまでには気の遠くなるような時間がかかり、当面は円高になる見通しはどこにも存在しないといいます。

ただ、こうした日米間のような格差が、制度改革を促し、日本を前進させる原動力を生み出しているのです。

超「格差拡大」の時代―価格破壊の「地獄」から抜け出せるのは技術力のみ Book 超「格差拡大」の時代―価格破壊の「地獄」から抜け出せるのは技術力のみ

著者:長谷川 慶太郎
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2006年10月15日 (日)

論争 格差社会

「論争 格差社会」 文春新書編集部編

格差問題は、政治の世界でも大きく取り上げられ、安倍内閣の下、再チャレンジ制度などが検討されています。

数年前から、不平等社会についてや、格差についての著書が多く、明確な格差を示すデータも提示できないけれど、バブル崩壊での負け組みやIT長者などの対比で、庶民のイメージとしては、格差を感じていると言えるでしょう。

格差をめぐる本なら山こそ出ており、皆さんの中にもいずれかの本を読まれた人も多いでしょう。しかし、社会的な問題を巡る論争においては、一人の論者の意見だけに耳を傾けるのは問題が大きい。「真実はひとつ」とよく言われる。それが本当だとしても、「格差社会」は13千万人の日本人全員が関わる、規模が大きく、複雑極まりない問題である。どの学者や政治家もいかに優れた分析を行っても、とうてい一人の力で現実認識には限界が出てこよう。本書では、これまで格差問題について述べてきた有力な学者や識者の論文を取りまとめたもので、是時とも格差問題に関心のある方には読んでいただきたい本です。

先に私見を述べさせていただくと、格差問題が国民の関心を引くのは、「夢」があるかどうかに問題があるのではないでしょうか。今日より明日が豊かで幸せか、自分の時代より子供の時代の方が、豊かで幸せかどうか、に確信が持てない現在の時代がこの問題を大きくしているのではないでしょうか。

本書の内容を少し紹介します。

「日本の不平等」を書いた大竹文雄大阪大学教授は、ジニ係数が大きくなっているのは、高齢化が主因だとしていますが、なぜ、人々が格差を感じているのかについて整理しています。①今の所得格差ではなく、将来、所得格差が大きくなると予想し、生活水準に格差が出ると感じている。②デフレによる低成長の影響で名目所得が低下している。③若年失業やフリーターが顕在化していること。④成果主義賃金の導入で多くの人が将来的に賃金格差を生む可能性を感じている。⑤所得階層間の移動の低下。⑥累進課税の緩和。⑦社会全体の貧困層や富裕層の比率は変わっていないとしても、ヒルズ族やホームレスに関するメディアの報道が増え、格差感を抱く可能性が高くなっている。

大竹氏は、「日本では格差が拡大している」とする指摘については、冷静な検証が必要であるとします。格差のない社会はありえない。といっても問題がまったくないわけではないが、必要なのは、どのような格差を問題にすべきかという視点が大切だとします。

「少子高齢化社会のみえない格差」の著者、白波瀬佐和子東大助教授は、産業構造や国の経済力が欧米並みになった今も、「男は仕事、女は家庭」に代表されるようなみえにくい格差があると指摘します。この指摘も見逃せない点です。

「規制緩和」と「格差拡大」を結びつける野党や金子慶応教授を糾弾する仲正昌樹金沢大教授の論文も一見の価値があります。「金子たいチョイ左翼連がホリエモン問題と結び付けたがって・・・」などと過激な話は面白いものがあります。規制緩和によって、既得権益を守られていた人がいる反面、自由に経済活動をすることによって浮かび上がってきた人も多勢いるでしょうから。仲正教授だけでなく、日垣隆氏も、朝日新聞や読売新聞が非正規社員を多く抱え、新聞作りをしておきながら、同一労働同一賃金と論陣を張ったりしていることの矛盾を突きます。本当にそう思うなら、自ら非正規雇用の記者に正社員と同じ賃金を払うべきだろうと言います。特に毎日新聞では、格差問題にこの論陣を張っていますが、毎日の記者が朝日の記者と同じ賃金を要求したら毎日新聞が倒産するだろうとからかいます。

本書には当然「希望格差社会」「パラサイト社会」の著者、山田昌弘東京学芸大教授の話も掲載されています。山田氏が注目しているのは、経済的な指標で計られる以上に質的な生活状況の格差、いわば「ステイタス(立場)の格差」というものが出現してきたことだと言います。上位のステイタスにいる人々は、努力が報われる環境に自分の身を置き、将来生活にも希望を持つことができる反面、下位のステータスをいるものは、努力が報われない環境に押し込められ、徐々に希望を失っていくとします。

竹中平蔵氏も格差論への反論も載せています。小泉政権で批判の真っ只中におかれた立場から、市場原理主義者といわれ、市場メカニズムが悪者扱いされたりしますが、「不良債権処理を推し進めたことで、格差がひろがりましたか?放置しておいたら、倒産が増加し、所得がゼロになる人が増えたのではありませんか」と応えています。また、経済の専門家としてどこに注目しているかというと、所得が一番低い層の動向です。所得格差というのは必ず存在します。その一番低いところの絶対水準が下がっているかどうかが一番重要だといいます。フロンティアが広がっていく時代に、当初一部の人の所得が高くなっているのは特別悪いわけではなく、問題は低い層が底抜けになって落ちていくことだといいます。現状の認識としてはそこまでまだ言っていないという認識です。

この他にも、森永卓郎あり、「不平等社会日本」の佐藤俊樹東大助教授あり、果ては、渡部彰一と日下公人の対談で、大きな時代感での捉え方、世界的な観点からの上流、中流、下流を考え、現代の格差論とは一線を画した大きな視点で論陣を張ってくれます。

格差論を考えている人には、すぐに読める新書なので、一読されることをお勧めします。

論争 格差社会 Book 論争 格差社会

販売元:文藝春秋
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2006年10月14日 (土)

複雑な世界、単純な法則

「複雑な世界、単純な法則」 マーク・ブキャナン

日経新聞の株式欄の名物コラムに「大機小機」というものがあります。18年10月13日(金)に「北朝鮮と世界情報ネットワーク」というタイトルで、「北朝鮮の人々は現在の世界的な情報ネットワークの中で、孤立し続けられるのだろうか。」という疑問を呈し、そのコラムの中で、「米国の社会学者が、ある手紙を数千キロ隔たった地点に人づてに伝えるのに何人の人を介したら届くかという実験を行った。その手紙はランダムに選ばれた最初の人(複数)を起点に、次々とあて先を知っている可能性が高いと判断された人に託されたわけだが、・・・平均してわずか5.5人を介すだけで届くという驚くべき結果が得られた。情報の流通という側面からすると、世界はきわめて狭いのだ」と述べています。

このコラムを書いた人が読んでいたのが、本書「複雑な社会、単純な法則」のはずです。

1998年、コーネル大学の数学者ダンカン・ワッツとスティーヴン・ストロガッツは偶然にも今までに見たこともない興味深いグラフに行き当たるのです。ワッツとストロガノフは、人間の興味深い謎のひとつを理解しようとする中で、そのグラフに行き着いたのです。そのもとになったのが、日経のコラムでも出てきた記述にあるとおり、スタンレー・ミルグラムという学者が手紙の実験を始めたことです。ミルグラムの実験は、何回も繰り返されたのですが、何回投函されても、6回前後で最終者についてしまうのだ。アメリカは何億もの人がいるのに、結果は信じがたいものです。多くの人が「六次の隔たり」という言葉で口にするようになった。作家ジョン・グエアは言った。「この地球上の誰でも、たった6人分、隔たってだけなんですって・・・大統領でもヴェネチアのゴンドラ乗りでも・・・有名人だけじゃないわ、だれとでもなのよ。ジャングル住民ともエスキモーとも私は6人の人を誰とでもつながっているの。」

社会学の世界では6次の隔たりが特別な場合だけでなく、一般的にも成り立つことを示す有力な証拠が得られている。しかし、どうして6次の隔たりが現実的なものとなっているのか。どのようにすれば60億の人々をこれほど緊密に結び付けているのか。

ワッツとストロガノフが取り組んでいたのはそうした疑問だった。人々を点で表し、点と点を結ぶ様々なパターンを考えていたのですが、とうとうある日二人は特異なグラフに行き当たります。彼らが発見した点と点のつなぎ方は規則的なものでもランダムなものでもなく、両者の中間とでもいうべき微妙なもので、カオスと秩序とが拮抗して混在する独特なパターンになっていたのである。

本書ではこうした驚くべき「スモールワールド」のグラフを詳しく調べて、スモールワールドがどのようなマジックを使うのかを教えてくれます。

スモールワールドという原因と結果が織りなす複雑な網構造(ウエブ)に対する理解は、社会的にも悲しいくらい欠けているようです。経済の世界でもなぜ富の分布が少数のグループに偏るのかなどの原因をきちんと説明できる理論はあまりないと思います。また経済の世界だけでなく、遺伝子を扱う生物学者や、また生態学者たちにも複雑に絡み合ったネットワーク構造の働きを明らかにしていく必要が出てきます。

ネットワークの研究は、「複雑性の理論」と呼ばれ科学の広範な領域の一部である。抽象的な見方をすれば、相互作用する要素―原子、分子から細菌、歩行者、株式市場のトレーダー、さらには国家まで―の集合体はいずれも1種の物質からなります。何からできているかに関わらず、こうした物質には形態に関するある種の法則が当てはまるのです。

本書では、なぜ世間が狭いのか、24人の知り合いがいれば世界中とつながること、インターネットがスモールワールドの法則にしたがっていること、果ては脳がうまく働く仕組みまで、スモールワールド説明してみせます。

読者の皆さんはインターネットを使ってつながっているのですが、このネットは、当初くもの巣のようにネットを張り巡らせ、ハブを作らないことで、どこを攻撃されても接続が途切れることがないようになっています。ところが、そのインターネットの世界でも、世界のどこに繋がるにしても、何回もいろいろなサーバーを経由しているわけではなく、ほんの数回の接続で地球の裏側に繋がっているそうです。それは、くもの巣上につくりながら、特定のサーバーに多くの人が繋がっていることが起こっているからです。(例えばヤフーと小さなサイトとでは他からの接続数が大きく違うはずですよね)

エイズがなぜ一気に広がったのかの話も、流行も同じような理論で説明が可能です。

本書では、物理学者が明らかにしていく理論が、物理学ではない、社会のネットワークやコンピュータのネットワーク、細胞生化学、経済学などの解説になっていますが、物理学がますます進化して、学問の創発に繋がっていきそうです。スモールワールドの考え方は驚くほど簡単なものですが、今後さらにあらゆる構造を解明する鍵になりそうです。

本書を読むと、われわれの世界は普遍的な原理によって支配されているかのように見えます。

本書は2005年3月の発刊で、大きな評判を起こさなかったように思えますが、読んでいない方がいらっしゃったら一読をお勧めできる本です。自分の物の見方が変わりますし、株や為替をやっている方にもたぶん新たな視点を提供してくれますよ。

複雑な世界、単純な法則  ネットワーク科学の最前線 Book 複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

著者:マーク・ブキャナン
販売元:草思社
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2006年10月 9日 (月)

伊藤元重のマーケティング・エコミックス

「伊藤元重のマーケティング・エコノミクス」  伊藤元重

著者の伊藤先生は、日本が誇る大経済学者の一人だと私は思っているのですが、今までの著作やテレビでのコメンテーターとしても、経済を非常にわかりやすく教えてくれることで有名です。私も講演会に行ったこともありますが、やさしそうな人柄で、他人にやさしく本書も含め経済解説にもその人柄が出ているようです。

著者は、昔からセブン&Iの鈴木敏文CEOとも親交もあり、流通の現場に強く、経済理論と現場を結びつけた話をしてくれます。本書でも、ミクロとマクロの両面から市場や経済の動きを追っています。

現在、日本市場は非常に面白い動きを見せています。バブル崩壊や不良債権問題からの出口が見えてきた中で、次々に新しい業態が生み出されています。少子高齢化による市場の成熟化が進むとはいえ、そのような時代にあったビジネスモデルを見出して高い利益率をあげる企業も増えています。本書では、いろいろな商品やサービスの事例を取り上げながら、成熟市場のビジネスモデルを紹介してくれます。

さて、消費市場が成熟化とはどういうことなのでしょう。成熟化という意味の中では、人口が減少していく中で市場規模が縮小していくこともあるでしょうし、消費者の所得水準が高くなる中で、単なる商品ではなく、より高いレベルの価値を求める消費者が増えているということも意味もあるでしょう。本書ではいろいろな事例を読むことで、今の市場の変化を読み取らせてくれます。みなさんが、いつも見慣れている風景の中にいかに新しい面を見つけていくかを教えてくれます。消費の現場では、コンビニの変化や健康飲料で活躍する飲料メーカー、ストレスフリーを追及することで急拡大するJR東のSUICAなどの事例を深堀し、基本原理を見えるようにしてくれます。

昔のように、生産したモノをどうやって売り込むのかと言うマーケティングではなく、顧客がどのような価値を求めているのかという点から先ず考えを起こし、それにあったビジネスの仕組みを考えることが重要になってきます。わかっていてもなかなかできないもので、バブル崩壊から15年以上経っても、右肩上がりの時代に縛られていたりします。ただ一方で、古い価値観を断ち切った企業の中から驚異的な利益を上げるところもあります。成熟市場といわれる現代市場の実態をとらえ、「流通」という手段を乗り越え、「マーケティング」という広い視点から市場を見直すことが重要だといいます。「流通」=「流して通す」だけでダメなら、どうしたらよいのでしょう。メーカーも小売・卸も、そしてサービス産業も、「付加価値」を提供しなくてはなりません。どのような価値をつけていくのかが鍵になります。付加価値というものはとらえることが難しく、消費者が感じる便利さや安心・安全から、ファッションやトレンドに至るまで、様々なものから付加価値が生まれるといいます。

本書では、経済のサービス化傾向(単にモノでは中国で作られるほうが安かったりします)、コンビニや駅ナカを例に取り、時間という価値の捉え方などを解説してくれます。住宅リフォームの話の中で、水周りのリフォームが多いという話があるのですが、そこで「私も時々出ているテレビ報道番組で若い女性のアナウンサーの人が長いときには3時間近くお風呂に入っている」との著者の言葉が出てきますが、テレ東の大江麻里子アナのことですね。こういう女性が増えているとリフォーム需要が堅調であるとしています。

本書で面白いと思ったひとつに商業施設の立地問題があります。10年くらい前には、小売業の郊外化という話も多く語られ、著者も流通の中心は郊外に移っていくだろうと思っていたそうですが、都心部の地価の下落で、都心部に購入しやすい価格のマンションが販売され「都心回帰」が言われだしました。商業立地の問題も「都心部か郊外か」の方向性が見えなくなってきています。確かに、東京や名古屋、大阪では都心立地が進んでいますし、その動きは顕著です。しかし、著者はここ数年の全国的な動きを見ると、そうした見方は少し修正しなくてはいけないと考えます。人口分布の状況を考えれば、今後、さらに郊外の商業が活性化する可能性が高いというのです。ニューヨークと比べて解説してくれます。ニューヨークはマンハッタンにも大きな人口を抱えており、都心回帰となってきた東京などとよく似ています。しかしこの事実にもかかわらず、ニューヨークの商業立地を見ると、郊外の大型商業集積が充実している。マンハッタンにある店は日常生活に関わる店というよりは、ショーウィンドウ的な基幹店や観光客目当ての店であり、マンハッタンに住んでいる人は買い物をしに車で郊外に行くそうです。商業は土地集約的な産業であるので、高い土地では高価な商品を大量に販売しないとやっていけないことを考えると、都心回帰とばかりはいえないですよね。

最近は郊外への大型店規制がかけられ、町の中心部の活性化する方向で考える人が多いようですが、本当に生き残れるのか考えさせられます。

本書では最近のアジアでのコンビニ戦略や最近上向いてきているデパートの戦略など面白い話がてんこ盛りのどこを読んでもためになる本です。

伊藤元重のマーケティング・エコノミクス Book 伊藤元重のマーケティング・エコノミクス

著者:伊藤 元重
販売元:日本経済新聞社
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2006年10月 8日 (日)

「追跡!値段ミステリー」

「追跡!値段ミステリー」  日本経済新聞社

本書は日経新聞の連載コラムをまとめたものです。商品情報とは異質に、値段そのものに潜む様々な謎を掘り起こし、解明していくものです。

値段といえば、需要と供給で決まるとは言え、需要サイドにも、供給サイドにも思惑や事情があります。普段何気なく買っているものや受けているサービスにまつわるちょっとした疑問に答えてくれるのが本書です。新聞記者さんも新製品などの情報収集は得意としますが、なんでこの値段なの?ということを調べていくのは大変だったようですよ。それに毎週の新聞連載に、何の値段について調べれば読者に喜んでもらえるのかも相当苦労したようです。全部で75のミステリーと23の値段についてのコラムが掲載されています。

この本って、値段についてのトリビアの泉のようなものですか。いやいや無駄な知識とは言いがたいので、トリビアではないですかね。

値段ミステリーについて少し紹介しておきます。

1.        セルフ式給油所、割安感が薄れたのはなぜか。

セルフ店の経営コストは、実は従来型と変わらないのだそうです。確かに人件費は節約できるのですが、人が少ない分、監視カメラや消化設備など安全対策を充実させる必要があり、従来型より2千万円ほど多く設備投資がかかるそうです。それに、オイル交換やカー用品販売などの儲けもない分、セルフ式は従来型よりも採算面で不利となっているようです。

2.        魚のすり身、高騰続く

大手水産会社は春と秋にアメリカの水産加工会社などとすり身の輸入交渉をするのですが、04年春から3回の交渉で3回連続約30%の値上がりをしているそうです。理由は、白身魚フライやハンバーガーの具などに使うために、ヨーロッパや中国でフィレの需要が急騰していることにあります。その背景には、BSE問題や鳥インフルエンザなどにより、魚が見直されていることです。世界的にみても漁獲量が減っている中での需要が増しているとのことです。

(スーパーのちくわなども、値段は変わっていませんが、量が減っていますよね)

3.        ティッシュペーパー、なぜ5箱パック?

スーパーやドラックストアでは5箱をポリ袋でパックにしているのが普通ですよね。なぜ、こんな売り方になったのか。これは1984年、ネピアで知られる王子製紙がはじめたことです。なぜ、こうしたのかというと、特売などで2個、3個と買う消費者が増え始め、小売店がお客さんのためにひもで縛るなどしていたので、利便性を考えてはじめたそうですよ。

4.        国産サクランボはなぜ高い

サクランボといえば、佐藤錦など高級品を思い浮かびます。当然アメリカンチェリーより高いし、日本産は高級品と信じて疑わない人も多いはず。サクランボはみかんなど他の果実と比べると、収穫量も少ないし、旬も短いので、需給関係から考えると高くなるのですが、同様に6月が旬のビワはサクランボ収穫量の半分なのに、卸値はサクランボの半分です。需給関係で考えると、ビワのほうが高くても不思議ではないのですが。なぜか。卸売市場の関係者に聞くと、サクランボの赤色は消費者の初夏のイメージとして定着しているからとのこと。売り場に季節感を出したいからと、百貨店やスーパーから高値で注文がはいるのです。また、鮮やかな赤は贈答品にもイメージがよいようです。サクランボの商品価値を大きく決めるのは、赤色なのですね。

5.        トロピカルフルーツ、高くても消費が伸びる?

今年の夏は、マンゴーが大人気でしたね。本書が連載を始めたころからも、徐々にマンゴーなどトロピカルフルーツが高くても売れ出したようです。

マンゴーは、1個1500円の沖縄産、800円くらいの豪州産、500円程度のメキシコ産とそれぞれ品質、価格に応じた種類があり、それぞれにイメージがあり、値崩れを起こしていないそうです。

かつて、安売り競争の激しかったバナナやパイナップルも、最近は値段が高くなる傾向があるそうです。それは、甘みが強い新種類の輸入が増え、値段が多少高めでも、味を評価して繰り返し買うお客さんが増えているようです。

6.        缶コーヒー、原料高騰してもなぜ120円?

コーヒー豆って日本では取れないし、世界的には価格変動が激しく、高騰することもしばしばです。でも、いつも120円で売っているのはなぜでしょう。缶コーヒーの消費税を除いた115円の内訳は、人件費、広告宣伝費など飲料メーカーの経費が4割、問屋や小売店の収入となる流通マージンが3割、残り3割が原材料費となる。さらに、この原材料費を分解すると、実は半分以上はスチール缶、段ボール箱などの包装資材が占める。缶コーヒーの競争は熾烈で、できるだけ目立つようにと缶作りにあらゆる知恵が絞られます。そのため1缶当たりざっと20円にもなります。肝心のコーヒー豆原価は1缶で、5円くらいだそうです。だから、コーヒー豆の価格変動があまり響かないのですね。

7.        東京のタクシーの値段は、なぜ下がらない。

タクシー業界は、2002年の規制緩和で運賃設定や新規参入規制が緩和されました。ところが大阪と東京では事情がちょっと違います。東京では値下げなんてあまりないのに、大阪では20社近くが初乗りを値下げして、5千円を超えれば半額割引が当たり前になっています。ここには需給の関係があるそうです。大阪から東京に本社を移したり、大阪支店を小さくして東京本社に業務を集中してコスト削減を図ろうとしたりします。また景気も東京の方が良く、需要が旺盛であるため、値段が下がりません。ここまでなら、単に需給の関係での話ですが、顧客の気質の違いも大きいのだそうです。東京では運賃が安くても運転手が喫煙したり、地理に不案内だったりすると、その会社はすぐに敬遠されてしまいます。割安感重視の大阪に対し、快適さや速さを含めた満足感重視の傾向が強いようです。割安な小型車より、乗り心地の良い大型・中型車を好む客が多いのも東京です。東京では運賃の違うタクシーが並んでいても、先頭の車を飛ばして2台目以降の安い車に乗る人は少ないそうです。大阪なら、わざわざ安いタクシーを目の前にして、高いタクシーに乗るなんてバカにされますよね。

追跡!値段ミステリー Book 追跡!値段ミステリー

販売元:日本経済新聞社
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2006年10月 7日 (土)

成果主義 日経ビジネス

成果主義 稲盛語録

「人材沈没」(日経ビジネス)

2006年10月2日号の日経ビジネスは、これまで、長期的な戦略で人材を育てなかったため、現場のリーダーが育たない。現場のリーダーが不在だから、続く若い層も伸びない。「人材のデフレスパイラル」と称しています。かつては、終身雇用で、年々部下が増えていき、自然と教育が行われたのでしょうが、今は、社内でも成果主義、新人採用は即戦力を求める、という風に変わってきています。

今号で、私の尊敬する稲盛和夫氏の言葉が、あまりにも心に残ったので書き残しておきました。

記者から、「個人主義の傾向が強まり、個々が仕事のやりがいや充足感を重視するようになってきた。企業はこれからどのようにして社員に幸せを提供すべきか」と問うています。

それに対し、稲垣は、「経営者がその哲学(注:利他主義)を社員と共有できるかどうかと深く関係します。お互いに同じ方向を向いて仕事をしているかどうかで、仕事から得られる幸福度は大きく変わってきます。

考え方や哲学を会社全体で共有させる努力もしないで、安直に成果主義に飛びつくのが一番、タチが悪い。成果主義では利益を出した部門や個人は厚遇され、そうでないと冷遇される。一方では喜ぶ社員がいて、一方では不平不満を持つ人間がいる。全社が一丸とならなくてはならないのに、社内で調和が取れなくなってしまいます。

さらに、ある時は喜んでいる社員でも、その部門が赤字転落して給料やボーナスが一気に減るかもしれない。それまでどんなに会社への忠誠心が高くても、すぐにぶつぶつと不平不満を言い出します。それで結局は、会社が「ぶつぶつ社員」の集合になる。成果主義の限界です。

私が成果主義を取り入れない理由は、会社はみんなを幸せにさせるべき場所だからです。いい業績を出した人や部門は、そうでない所を助けて引き上げる。そういう信頼関係と哲学があれば、何も成果主義を採用しなくたって、みんな気持ちよく働いてくれるんです。」

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2006年10月 1日 (日)

日本をロハスに変える30の方法

「日本をロハスに変える30の方法」  NPOローハスクラブ

このブログで少し前にロハスの本を紹介し、ロハスと何かについて解説しましたが、本書は、現在、ロハス層に愛されている「事業」「商品・サービス」「街づくり」を40個も紹介してくれます。私も知っているものがありますが、まだまだ知らないものが多く、今後ロハスについて考えていくうえで非常に参考になりました。

米国生まれの「Lifestyle of Health and Sustainability 」というコンセプトは、日本では2002年の9月21日の日経新聞の生活情報面に載った一つの記事がLOHASを本格的に紹介したはじめての記事になりました。その後、ビジネス関係に特に大きな影響をもたらしたものは、2005年6月に日経流通新聞のヒット番付にLOHASが西の大関として選定されたことでした。東の大関「愛知万博」を知らなかった人はいなかったでしょうが、LOHASについてはビジネス関係者のほとんどが「LOHASって何?」と思ったはずです。しかし、その後、急速に認知度が高まってきています。

米国で誕生したLOHASというコンセプトが急速に私たち日本人の気持ちをつかんだのは、その発想がある種とても日本的な、人は自然の一部という思想に近いものを直感的に感じる人が多かったからでしょう。

ここには、まだまだメジャーでないLOHASな会社や街が紹介されています。

今やビッグビジネスの世界でも、大企業ほどLOHASのコンセプトをいかに取り入れ顧客に受け入れてもらえるか考えているのではないでしょうか。私のブログでも、三菱東京UFJ銀行がコンサルタントにLOHASを取り入れるにはどうしたらよいのかと聞いた話を紹介したことがあります。

LOHASをマーケットの面から見ると5つに分けられるそうです。

1.        サステナブル・エコノミー(持続可能な経済)

環境配慮型住宅、再生可能エネルギー、代替エネルギー、省エネ商品など

2.        ヘルシー・ライフスタイル(健康的な生活様式)

オーガニック食品、自然食品、サプリメント、オーガニック繊維製品など

3.        オルタナティブ・ヘルスケア(代替医療・自然医療)

漢方、アロマテラピー、健康、ホメオパシー、ホリスティックな予防など

4.        パーソナル・ディベロップメント(自己啓発)

マインド・ボディ・スピリット関連製品、ヨガ、フィットネスなど

5.        エコロジカル・ライフ(環境に配慮した生活様式)

環境配慮型住宅、インテリア、家庭用品・オフィス用品、エコツーリズムなど

そしてこれらへのマーケットへ近づくLOHASな人々の特徴としては、次の8つが挙げられます。

1.        LOHAS層は学歴・年収共に高め

2.        上昇志向を持ちつつ、人のために役に立ちたいと思う

3.        自分の健康のために環境に配慮する

4.        環境によいことを行う=自分にとっても気持ちのいいこと

5.        社会的課題に対する意識が高い

6.        情報力、購買力共に高く、消費をリードする

7.        ブランドイメージやデザイン性を重視し、トレンドも押さえている

8.        情報の収集は、新聞、専門化の話、そして非営利団体からの情報を重視

本書では、40社・団体の事例が示されますが、共通するのは、一見困難とも思える、「エコ」と「エゴ」の対立や、会社は利益優先という考え方などを乗り越え、常識の壁に問題意識を持って立ち向かう姿です。そして少しずつかもしれませんが、確かな成果が生まれつつあります。

本書のタイトルになっている30のポイントは、次の8つのテーマに集約されます。①理念・哲学、②マーケティング、③環境への配慮、④商品・サービス、⑤コミュニケーション、⑥地域や社会、世界とのつながり、⑦やってはいけない!、⑧究極の目的(持続可能な未来を築く)、に集約されます。

最近では、テレビ東京のWBSでも紹介されている会社も多く紹介されています。リフォームのOKUTAもその一つです。無添加リフォームで身体に有害な素材を用いないリフォームを行います。

風で織るタオルとして有名な池内タオルもまさにLOHASです。オーガニックコットンを使い、風力で発電されたグリーンエネルギーでタオルを生産しています。

このほかにも、LOHAS商品の専門ネット販売会社やLOHAS関連の投資ファンド、フェアトレードなど気になる会社や商品などのオンパレードです。

本書の最後にLOHASのオピニオンリーダーたちの声が載っています。気に入ったものを紹介しておきます。

    近江商人には有名な言葉で「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」という言葉があります。・・・自分自身にも相手に対して心地よく行動することができれば、いい世の中になり、LOHAS的な生き方につながっていくのではないでしょうか。

    21世紀は地球環境の世紀。しかしこの転換点にさしかかっても、まだ根本的に欠けているものがある。それは心の転換、つまり私たちの価値化の転換である。

    LOHASは「自分だけ」から「共存共栄」へと導く、21世紀の静かな「価値観革命」なのです。

    LOHASは、新しいビジネススタイルであると同時に、新しい市民運動でもあります。突き詰めて考えれば、LOHASは「希望」なのかも知れません。

本書ではこう言います。「LOHASという言葉を使おうと使うまいと、世の中をサステナブルな方向へともっていきたいと想いがあり、行動に移す勇気があれば、誰でも、いつからでもLOHASをはじめることができる」と。あなたも始めてみませんか。

日本をロハスに変える30の方法 ― BUSINESS LOHAS Book 日本をロハスに変える30の方法 ― BUSINESS LOHAS

著者:ローハスクラブ
販売元:講談社
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