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2006年10月14日 (土)

複雑な世界、単純な法則

「複雑な世界、単純な法則」 マーク・ブキャナン

日経新聞の株式欄の名物コラムに「大機小機」というものがあります。18年10月13日(金)に「北朝鮮と世界情報ネットワーク」というタイトルで、「北朝鮮の人々は現在の世界的な情報ネットワークの中で、孤立し続けられるのだろうか。」という疑問を呈し、そのコラムの中で、「米国の社会学者が、ある手紙を数千キロ隔たった地点に人づてに伝えるのに何人の人を介したら届くかという実験を行った。その手紙はランダムに選ばれた最初の人(複数)を起点に、次々とあて先を知っている可能性が高いと判断された人に託されたわけだが、・・・平均してわずか5.5人を介すだけで届くという驚くべき結果が得られた。情報の流通という側面からすると、世界はきわめて狭いのだ」と述べています。

このコラムを書いた人が読んでいたのが、本書「複雑な社会、単純な法則」のはずです。

1998年、コーネル大学の数学者ダンカン・ワッツとスティーヴン・ストロガッツは偶然にも今までに見たこともない興味深いグラフに行き当たるのです。ワッツとストロガノフは、人間の興味深い謎のひとつを理解しようとする中で、そのグラフに行き着いたのです。そのもとになったのが、日経のコラムでも出てきた記述にあるとおり、スタンレー・ミルグラムという学者が手紙の実験を始めたことです。ミルグラムの実験は、何回も繰り返されたのですが、何回投函されても、6回前後で最終者についてしまうのだ。アメリカは何億もの人がいるのに、結果は信じがたいものです。多くの人が「六次の隔たり」という言葉で口にするようになった。作家ジョン・グエアは言った。「この地球上の誰でも、たった6人分、隔たってだけなんですって・・・大統領でもヴェネチアのゴンドラ乗りでも・・・有名人だけじゃないわ、だれとでもなのよ。ジャングル住民ともエスキモーとも私は6人の人を誰とでもつながっているの。」

社会学の世界では6次の隔たりが特別な場合だけでなく、一般的にも成り立つことを示す有力な証拠が得られている。しかし、どうして6次の隔たりが現実的なものとなっているのか。どのようにすれば60億の人々をこれほど緊密に結び付けているのか。

ワッツとストロガノフが取り組んでいたのはそうした疑問だった。人々を点で表し、点と点を結ぶ様々なパターンを考えていたのですが、とうとうある日二人は特異なグラフに行き当たります。彼らが発見した点と点のつなぎ方は規則的なものでもランダムなものでもなく、両者の中間とでもいうべき微妙なもので、カオスと秩序とが拮抗して混在する独特なパターンになっていたのである。

本書ではこうした驚くべき「スモールワールド」のグラフを詳しく調べて、スモールワールドがどのようなマジックを使うのかを教えてくれます。

スモールワールドという原因と結果が織りなす複雑な網構造(ウエブ)に対する理解は、社会的にも悲しいくらい欠けているようです。経済の世界でもなぜ富の分布が少数のグループに偏るのかなどの原因をきちんと説明できる理論はあまりないと思います。また経済の世界だけでなく、遺伝子を扱う生物学者や、また生態学者たちにも複雑に絡み合ったネットワーク構造の働きを明らかにしていく必要が出てきます。

ネットワークの研究は、「複雑性の理論」と呼ばれ科学の広範な領域の一部である。抽象的な見方をすれば、相互作用する要素―原子、分子から細菌、歩行者、株式市場のトレーダー、さらには国家まで―の集合体はいずれも1種の物質からなります。何からできているかに関わらず、こうした物質には形態に関するある種の法則が当てはまるのです。

本書では、なぜ世間が狭いのか、24人の知り合いがいれば世界中とつながること、インターネットがスモールワールドの法則にしたがっていること、果ては脳がうまく働く仕組みまで、スモールワールド説明してみせます。

読者の皆さんはインターネットを使ってつながっているのですが、このネットは、当初くもの巣のようにネットを張り巡らせ、ハブを作らないことで、どこを攻撃されても接続が途切れることがないようになっています。ところが、そのインターネットの世界でも、世界のどこに繋がるにしても、何回もいろいろなサーバーを経由しているわけではなく、ほんの数回の接続で地球の裏側に繋がっているそうです。それは、くもの巣上につくりながら、特定のサーバーに多くの人が繋がっていることが起こっているからです。(例えばヤフーと小さなサイトとでは他からの接続数が大きく違うはずですよね)

エイズがなぜ一気に広がったのかの話も、流行も同じような理論で説明が可能です。

本書では、物理学者が明らかにしていく理論が、物理学ではない、社会のネットワークやコンピュータのネットワーク、細胞生化学、経済学などの解説になっていますが、物理学がますます進化して、学問の創発に繋がっていきそうです。スモールワールドの考え方は驚くほど簡単なものですが、今後さらにあらゆる構造を解明する鍵になりそうです。

本書を読むと、われわれの世界は普遍的な原理によって支配されているかのように見えます。

本書は2005年3月の発刊で、大きな評判を起こさなかったように思えますが、読んでいない方がいらっしゃったら一読をお勧めできる本です。自分の物の見方が変わりますし、株や為替をやっている方にもたぶん新たな視点を提供してくれますよ。

複雑な世界、単純な法則  ネットワーク科学の最前線 Book 複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

著者:マーク・ブキャナン
販売元:草思社
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