« 本を読む子は必ず伸びる | トップページ | 新平等社会 »

2006年10月29日 (日)

日本の「戦争力」

「日本の戦争力」  小川和久

10月27日の新聞に、政府は北朝鮮の核実験が確認できなかったと発表しました。政府は、米国が大気中から放射性物質を検出したことや韓国の情報を踏まえて、可能性が高いとしただけで、核実験が行われたといえる確実に証明できる客観的なデータは得られなかったとして、核実験が行われたという断定は避けました。

北朝鮮は何をするかわからないと思っている人は多いと思います。そのとき、日本はどんな対応力があるのでしょうか。隣国の核実験も確認できない情報収集能力しかないことが、今回の事件ではっきりしたと思います。そんな国の防衛力はどうなっているのか。その一端でも手がかりにしようと手にしたのが本書です。

本書は2005年の出版ですから、この前の北朝鮮の核実験の前兆もない時期に書かれたものですが、北朝鮮に対する分析も鋭いもので、最近のニュースを見て少しずつわかってきたことが深く書かれており、今読んで十分すぎる内容であり、返って今だからこそ、現実の身として本書がわかると言えます。

また、安倍政権となって、米国と同様な国家安全保障会議構想がありますが、著者は既に本書の中でその構想を述べています。現状では、テロ対策にしても管理が横断的にできていないからでしょう。北朝鮮が東京にノドンをぶち込んでくることを警戒するだけでは不十分です。(最近のニュースで消防庁がJ・ALARTという地震やミサイル攻撃を瞬時に伝えるシステムを来年度から運用するとしています。私もあるセミナーで消防庁のシステムの説明を受けましたが、自治体が設置している防災無線放送に、「ミサイル着弾まで、後何分です。至急、建物の中に非難してください」というプレゼンビデオを見せられました)ただ、北朝鮮が張りぼての戦力でミサイル戦を挑んでくるだけではないはずです。拉致問題でもわかる通り、工作員が福井県などの原子力発電所を攻撃するだけでパニックになるはずです。まして、夏に東京でクレーン船が鉄塔にかかる電線に接触し、東京から神奈川にかけて半日停電になりましたが、接触事故で電車が止まったりと大変だったわけですから、テロリストや工作員が本気で電力停止を狙った場合、はかりしれないダメージを受けることになるはずです。病院などの自家発電装置も、何日も復旧しないことを想定はしていませんので、発電用の重油がなくなれば、入院患者で死んでいく人が続出するはずです。さらに言えば、工作員が日本に来なくてもサイバーテロ攻撃というものもあります。各企業もサイバーテロに備えていますが、各施設などさらに重要な施設はもっとサイバー攻撃に備えているはずです。しかし、米国では、原子炉の制御を不能にするのに、ハッカー出身の専門家は9分しかかからなかったケースがあるそうです。政府機関も企業も同じでしょうが、ホームページを作成したりする外部とネットで接続している担当部署にいる人なら、絶えず、中国などから攻撃を受けていることをご存知なのではないでしょうか。テロリストが本気でサイバー攻撃を仕掛けてきた場合、どこまで日本の社会基盤を守ることができるのでしょうか。

日本の最近の防衛費は年間5兆円弱。ロシア、イギリスとそう変わらず、中国、フランスと並んで世界有数の金額です。(中国政府の発表は信じられませんが)

05年度の防衛費は、4兆8301億円のうち、人件費・糧食費は2兆1562億円で、全体の44.6%にあたります。さらに施設整備費1368億円、営舎費・被服費など1080億円、基地対策費4973億円、その他支出費が837億円。純粋に軍事力の整備に使うことができるのは装備品など購入費9000億円、研究開発費1316億円、訓練活動経費8097億円の合計1兆8413億円にすぎません。この限られた防衛費で整備できるのは、「中ぐらいの国」の軍事力が精一杯です。

自衛隊の場合、問題はそれだけではないそうです。戦力の中身だそうです。実は日本の自衛隊は軍隊として均整のとれた総合力を備えているとは言えず、たいへんバランスの悪い軍隊なのです。例えば、海上自衛隊で考えれば、タイ潜水艦能力は世界トップクラスですが、それ以外の能力は備わっていないに等しいのです。航空自衛隊も「単能空軍」の色彩が強く、防空戦闘能力は世界トップクラスの実力ですが、長距離の航空攻撃の能力はありません。

なぜ、対戦能力と防空能力だけが世界トップクラスで、それ以外ないに等しい軍事力は、同盟関係にある役割分担としての米国の希望に沿った戦力なのです。

第2次世界大戦当時の軍国主義への反省と米国の要請によってパワー・プロジェクション能力のない自衛隊となったわけです。パワープロジェクション能力とは、「数十万規模の陸軍を海を越えて上陸させ、敵国の主要部分を占領し戦争目的を達成できるような構造を備えた陸海空の戦力」だそうです。

空挺団というのがあり、自衛官を輸送するのですが、全機フル稼働でも1度に1500人しか運べないし、そもそも空挺団の実員が1500人もいないという状況だそうです。戦争では兵站が重要ですが、それも全然不十分だそうです。(兵站部門がないというのは、太平洋戦争時のマレーシアでの死の行軍が思い出されます)

日本の戦闘能力も知らずに、立派な軍隊だからという議論や、憲法9条問題を語ることはできないといいます。真の力を知らずに語る国会議員が多くいることは確かでしょう。

ただし、日米同盟で自国を防衛しているので、在日米軍の事実を見逃すわけにはいきません。日本が米国を必要としている以上に、米国の世界戦略からすると日本は米国の最重要同盟国です。世界最大と呼べる事実として、燃料や弾薬がどれだけ日本にあるかに目を向けてみると、燃料では、横浜・鶴見、佐世保、八戸に大きな燃料基地がありますが、燃料の備蓄量については、アメリカ本土東海岸が当然1位ですが、鶴見は、アメリカ本土を含めても米軍第2位、佐世保は第3位です。また、ミサイルや爆弾の備蓄量も圧倒的です。広島県内に3箇所の弾薬庫がありますが、ここの3箇所だけで、日本の陸海空自衛隊の弾薬すべてより多いのです。世界最大・最強の米国第7艦隊の陸上弾薬庫は佐世保であり、ここを守る空軍の中隊は全世界に展開する部隊の中で最大の弾薬整備中隊であるとされています。

燃料や弾薬だけでなく、地球のほぼ半分を舞台とする第7艦隊の旗艦ブルーリッジは横須賀が母港です。その戦力の中心、空母キティーホークももちろん横須賀が母港です。米国の艦隊に母港を提供している国は日本以外にはありません。それはハイテクの塊となった現代兵器を整備できる技術を提供できる国はそんなにないこともありますが、第7艦隊によって、日本の存在を支えているともいえます。

自衛隊の貧弱さに比べ、米軍の力が大きなことがわかります。北朝鮮のミサイル攻撃にビビッてしまう我々ですが、もし、日本に性能の悪いノドンを打ち込めば、トマホークミサイルだけでも3000発程度を打ち込めるように配備されています(トマホークだけでですよ)。トマホークは、湾岸戦争やイラク戦争でも証明されていますが、時速700キロで、GPSと地形照合装置を使い、地上数十メートルを飛び、ピンポイントで目標を攻撃します。このほかにも地対空のパトリオットミサイルも地対地に使用でき、相手の発射ポイントに攻撃できたりします。

北朝鮮の空軍もクラシックな戦闘機があるだけで、制空権はありませんし、陸軍にいたっては、第2次世界大戦で使われていた戦車まで使っています。普通の国なら博物館で見られるくらいでしょう。

北朝鮮が、6カ国協議を拒否して、米国と取引したいというのは、とにかく米国に攻めないで欲しいといっているのです。ノドン1発で数千発のミサイルを受けてしまえば、何週間、国が持つかというより、何時間持ちこたえられるかの話になってしまうのです。

当然、北朝鮮は何をするのかわからないので、玉砕戦で日本にミサイルを撃ち込むかも知れませんので、多数の命が奪われる可能性があるのですが、それ以上に北朝鮮が致命的な反撃を受けてしまう仕組みができていることは、日本人として知っておく必要があると思います。

本書は、事実と数値データを使って物を考える著者の考え方などがよくわかる本なので、ぜひとも一読いただきたい本です。

日本の「戦争力」 Book 日本の「戦争力」

著者:小川 和久
販売元:アスコム
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 本を読む子は必ず伸びる | トップページ | 新平等社会 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/110149/3996266

この記事へのトラックバック一覧です: 日本の「戦争力」:

» ガソリン節約で高収入! [燃費、排ガス削減ビジネス]
燃費向上!。排気ガス削減!。環境改善にも一役買え、社会的な意義もあります。「節約」して「収益」になる。そこがポイントです。 [続きを読む]

受信: 2006年10月30日 (月) 12時21分

» 北朝鮮 [北朝鮮]
北朝鮮核戦争 [続きを読む]

受信: 2006年10月30日 (月) 14時13分

» 海上自衛隊 観艦式 [現役雑誌記者による、ブログ日記!]
TBさせていただきます。海上自衛隊観艦式、いってまいりました。 [続きを読む]

受信: 2006年11月 3日 (金) 22時41分

« 本を読む子は必ず伸びる | トップページ | 新平等社会 »