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2006年10月21日 (土)

超「格差拡大」の時代

「超「格差拡大」の時代」  長谷川慶太郎

タイトルを見ると、今流行の格差問題を考える本かと思いがちですが、本書は、マクロな経済分析から、国家間の格差や企業間の格差などを述べたものです。もちろん個人の格差にも言及されますが、社会学としての格差問題ではなく、経済学として述べられているだけですので、お間違いないように。

たぶん、著者の意向というより、出版社の意向で「格差」という言葉をタイトルに入れたのでしょうね。

現在、デフレ脱却論議があり、太田大臣は、デフレ脱却したかどうかはもう少し判断を待ちましょうとしていますし、尾身大臣は、デフレは脱却したなんていったりしていますが、それは、日本経済を見ての話です。本書では、世界経済を見渡すと、基調としてデフレであるとの見方を示しています。

逆にデフレであることにより、マネーが世界経済を回り、経済成長を促しているとの見方です。最近、原油価格がやっと下がってきましたが、それでもずいぶんと高値です。著者は、原油価格が上がっても、インフレ要因にはならないとしています。

著者の現状認識としては、21世紀は米国が唯一の大国であり、米国主導の一極支配体制が続くとしています。中東では紛争はありますが、世界全体を通じていえることは大規模な戦争は一切発生しておらず、その兆候すらないとの認識です。今の米国の世界最強の軍事力に対抗して、米国と軍事的な衝突をあえて試みようとする政治勢力、あるいは国家は存在しないとします。米国の軍事技術は相当優れており、湾岸戦争でのイラクのソ連製戦車戦を例に挙げます。ソ連製戦車の射程距離の外から、米国戦車が砲撃し、しかもすばらしい命中精度で、しかも劣化ウラン弾でソ連製戦車を打ち抜いてしまいました。米国は相当の軍事予算で他国の追随を許さない軍事技術を持ってしまっています。そしてその軍事力を支える経済力もあるわけです。当然、世界最大の経済大国なわけですが、それだけでなく、ニューヨークという世界最強のきわめて充実した機能を持つ「金融センター」があります。国際貿易をとれば、世界全体で5兆ドルを超える年間貿易取引の決済のうち、実は95%以上がニューヨーク決済です。ユーロ決済や円決済といっても、現実の決済市場はニューヨークなのです。

世界のマネーはニューヨークに集まってきます。デフレ基調の時代では、特に余裕資金の蓄積という形で、短期資金が大量に滞留し、かつ運用先を求めて漂流します。その短期資金を引きつけ、運用の場を提供できる「金融センター」はニューヨークだけであり、他にはその機能に十分に耐えるだけの力がないのです。

世界全体が米国の力を背景に長期の平和を持続するということは、経済活動は国際化してしまい、それぞれの国の経済活動が急速に交流を強めることになります。戦争経済化では、ヒト、モノ、カネの流れは国境で阻止されるのが普通です。しかし、長期に渡る平和が維持されるという国際環境では、すべての活動がグローバルに広がっていくのです。しかも、大切なことは、この経済活動の国際化は、必然的に民間企業相互の間でのすさまじいまでの販売競争を激化させます。21世紀が進行する中で、これらはより激しく、かつまた全面的に展開することはほぼ間違いない状況であると。

さらに、この状況に輪をかけているのが、BRICsの台頭です。これらの国々はロシアを除き、膨大な人口を持っています。BRICsは発展を遂げているとは言え、多くの人口がまったく国際競争力のない質の低い農産物を生産するしかない農民が多いのです。彼らは、少しでも所得を増やすために、都市部に集まり、低賃金もいとわず、経済活動に参加しようとします。したがって、BRICsからは、世界市場に向けて労働集約型の消費財が大量に供給されることになります。その結果、相次いで安価な消費財が先進国の市場に流出され、それによって、さらに世界的な消費者物価の停滞、あるいは下落を誘発する要因となっています。BRICs諸国だけでなく、経済状態の悪いアフリカ諸国などは、さらに低賃金労働を享受せざるを得ない状況となります。

このような経済基調が定着してくると、在庫など余分なモノを持つことは許されません。デフレによる値下がりによって損失が発生するからです。設備投資にしても、リースにしてモノを持たずリースを使うとかにします。そして、当面使い道のない余裕資金が滞留するというパターンが生まれます。そのマネーを吸収しているのがニューヨークの金融センターというわけです。そしてニュヨーク金融センターに集まってくるマネーにより、国際規模のパイプライン敷設工事などの世界規模の大型プロジェクトが行われることになります。また、投機マネーとして各種国際商品(非鉄金属からコーヒー豆まで)の相場を左右してしまうことになります。

長々と現状認識を述べていますが、それでは日本はどうなるのか。

結論から言うと、「日本の一人勝ち」が始まるということです。

発展途上国や中心国の低賃金労働者によって価格破壊が進みます。たとえば、薄型テレビは2年ほど前は日本の独壇場でしたが、今や、韓国だけでなく、中国でも生産し、低価格品がでてきました。このような状況の中で必要とされるのは、技術革新と設備投資です。デフレに対応するには、技術水準を今後も向上させて、品質、性能に格段の際をつけ、新鋭の設備と高度な技術を製品化するほかはありません。新たな設備投資を行い、旧来の設備を更新することはいまや絶対の条件です。

(このあたり、安倍内閣の方針と同じですね。イノベーションや設備投資に対する税制改革などですよね)

鉄鋼業などは、中国を初め海外勢が鉄の量産をしていますが、日本ではすさまじく設備更新が行われ、高級品は日本のものです。

また、原油価格の値上がりも日本有利に働いています。同じものを生産するのに使用するエネルギー量においては日本は格段に少なくてすむ技術を持っています。日本は米国より技術水準が高く、省エネでもはるかに大きな成果を上げています。それを端的に特許の国際収支です。日本は特許においてあらゆる国に対して黒字になっています。外国に払う特許料は年間5800億から6000億円に対し、収入は1兆3000億円もあります。

ただし、小泉さんが進めてきた改革をさらに推し進めることが必須とします。行政部門の改革を推し進め、国際情勢変化にきわめて機敏に、かつまた的確に対応する行政を持ち合わせる必要があります。

(このへんも、行革に対して面従腹背する官僚を意識して、安倍内閣が官邸主導をすすめることと同じですね)

ただし、日本の官僚制が解体させるくらいにしても、現実の金融市場が国際水準のように安定した状態になるまでは、今後10年間は低金利が存続されるだろうといいます。

著者は、デフレ基調は21世紀中、おそらく変わることはないと確信しています。日本の制度改革は一朝一夕ではいかず、日米の金利格差についても、米国に追いつき、米国への資金移動が止まるまでには気の遠くなるような時間がかかり、当面は円高になる見通しはどこにも存在しないといいます。

ただ、こうした日米間のような格差が、制度改革を促し、日本を前進させる原動力を生み出しているのです。

超「格差拡大」の時代―価格破壊の「地獄」から抜け出せるのは技術力のみ Book 超「格差拡大」の時代―価格破壊の「地獄」から抜け出せるのは技術力のみ

著者:長谷川 慶太郎
販売元:東洋経済新報社
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