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2006年10月15日 (日)

論争 格差社会

「論争 格差社会」 文春新書編集部編

格差問題は、政治の世界でも大きく取り上げられ、安倍内閣の下、再チャレンジ制度などが検討されています。

数年前から、不平等社会についてや、格差についての著書が多く、明確な格差を示すデータも提示できないけれど、バブル崩壊での負け組みやIT長者などの対比で、庶民のイメージとしては、格差を感じていると言えるでしょう。

格差をめぐる本なら山こそ出ており、皆さんの中にもいずれかの本を読まれた人も多いでしょう。しかし、社会的な問題を巡る論争においては、一人の論者の意見だけに耳を傾けるのは問題が大きい。「真実はひとつ」とよく言われる。それが本当だとしても、「格差社会」は13千万人の日本人全員が関わる、規模が大きく、複雑極まりない問題である。どの学者や政治家もいかに優れた分析を行っても、とうてい一人の力で現実認識には限界が出てこよう。本書では、これまで格差問題について述べてきた有力な学者や識者の論文を取りまとめたもので、是時とも格差問題に関心のある方には読んでいただきたい本です。

先に私見を述べさせていただくと、格差問題が国民の関心を引くのは、「夢」があるかどうかに問題があるのではないでしょうか。今日より明日が豊かで幸せか、自分の時代より子供の時代の方が、豊かで幸せかどうか、に確信が持てない現在の時代がこの問題を大きくしているのではないでしょうか。

本書の内容を少し紹介します。

「日本の不平等」を書いた大竹文雄大阪大学教授は、ジニ係数が大きくなっているのは、高齢化が主因だとしていますが、なぜ、人々が格差を感じているのかについて整理しています。①今の所得格差ではなく、将来、所得格差が大きくなると予想し、生活水準に格差が出ると感じている。②デフレによる低成長の影響で名目所得が低下している。③若年失業やフリーターが顕在化していること。④成果主義賃金の導入で多くの人が将来的に賃金格差を生む可能性を感じている。⑤所得階層間の移動の低下。⑥累進課税の緩和。⑦社会全体の貧困層や富裕層の比率は変わっていないとしても、ヒルズ族やホームレスに関するメディアの報道が増え、格差感を抱く可能性が高くなっている。

大竹氏は、「日本では格差が拡大している」とする指摘については、冷静な検証が必要であるとします。格差のない社会はありえない。といっても問題がまったくないわけではないが、必要なのは、どのような格差を問題にすべきかという視点が大切だとします。

「少子高齢化社会のみえない格差」の著者、白波瀬佐和子東大助教授は、産業構造や国の経済力が欧米並みになった今も、「男は仕事、女は家庭」に代表されるようなみえにくい格差があると指摘します。この指摘も見逃せない点です。

「規制緩和」と「格差拡大」を結びつける野党や金子慶応教授を糾弾する仲正昌樹金沢大教授の論文も一見の価値があります。「金子たいチョイ左翼連がホリエモン問題と結び付けたがって・・・」などと過激な話は面白いものがあります。規制緩和によって、既得権益を守られていた人がいる反面、自由に経済活動をすることによって浮かび上がってきた人も多勢いるでしょうから。仲正教授だけでなく、日垣隆氏も、朝日新聞や読売新聞が非正規社員を多く抱え、新聞作りをしておきながら、同一労働同一賃金と論陣を張ったりしていることの矛盾を突きます。本当にそう思うなら、自ら非正規雇用の記者に正社員と同じ賃金を払うべきだろうと言います。特に毎日新聞では、格差問題にこの論陣を張っていますが、毎日の記者が朝日の記者と同じ賃金を要求したら毎日新聞が倒産するだろうとからかいます。

本書には当然「希望格差社会」「パラサイト社会」の著者、山田昌弘東京学芸大教授の話も掲載されています。山田氏が注目しているのは、経済的な指標で計られる以上に質的な生活状況の格差、いわば「ステイタス(立場)の格差」というものが出現してきたことだと言います。上位のステイタスにいる人々は、努力が報われる環境に自分の身を置き、将来生活にも希望を持つことができる反面、下位のステータスをいるものは、努力が報われない環境に押し込められ、徐々に希望を失っていくとします。

竹中平蔵氏も格差論への反論も載せています。小泉政権で批判の真っ只中におかれた立場から、市場原理主義者といわれ、市場メカニズムが悪者扱いされたりしますが、「不良債権処理を推し進めたことで、格差がひろがりましたか?放置しておいたら、倒産が増加し、所得がゼロになる人が増えたのではありませんか」と応えています。また、経済の専門家としてどこに注目しているかというと、所得が一番低い層の動向です。所得格差というのは必ず存在します。その一番低いところの絶対水準が下がっているかどうかが一番重要だといいます。フロンティアが広がっていく時代に、当初一部の人の所得が高くなっているのは特別悪いわけではなく、問題は低い層が底抜けになって落ちていくことだといいます。現状の認識としてはそこまでまだ言っていないという認識です。

この他にも、森永卓郎あり、「不平等社会日本」の佐藤俊樹東大助教授あり、果ては、渡部彰一と日下公人の対談で、大きな時代感での捉え方、世界的な観点からの上流、中流、下流を考え、現代の格差論とは一線を画した大きな視点で論陣を張ってくれます。

格差論を考えている人には、すぐに読める新書なので、一読されることをお勧めします。

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