« 日経MJトレンド情報2007 | トップページ | ゴールデン・サイクル »

2006年11月25日 (土)

「自由な時代」の「不安な自分」

「自由な時代」の「不安な自分」 消費社会の脱神話化 三浦展

「下流社会」という言葉で一躍メジャーな存在となってしまった三浦さんですが、マーケティングをやっている人や社会学をかじっている人なら何冊か読まれている方も多いと思います。

本書は、今年6月の発刊ですが、著者が近年書いた消費社会論や対談を集めたものです。すこし古い作品も入っています。

特に現代問題となっている格差の話ではありませんが、日本の消費社会がどのように生み出されてきたのか、それを米国の冷戦時代からの戦略までさかのぼり論じられます。

私は学生時代に社会学理論を勉強していたのですが、その時の戦後日本社会の捉えるキーワードは「アメリカニゼーション」でした。

本書でもアメリカにゼーションという言葉は使われていませんが、日本がアメリカの影響を受けて、どのように消費大衆社会になってきたかが三浦さんなりの言葉で書かれたり、対談の中で述べられます。

三浦さんの下流社会やかまやつ女などは、最近、格差問題の中で語られるようですが、本書のように三浦さんの多くの論文を並べてみると、あくまでもマーケティングの文脈で述べられていることに気づかされるはずです。

三浦は次のように述べています。

高度経済成長期においては、「大きな物語」と消費とが密接に結び付けられていただけではなく、消費自体が「マイホーム」「ホワイトカラー」「三種の神器」などの物語を次々と生み出すことで、「大きな物語」を補強した。「消費は美徳」「大きいことはいいことだ」という言葉に代表されるように、より多く消費することが国民、会社人、さらには家庭人としてのアイデンティティ形成にもつながるという言葉があった。

しかし、その両輪が今、どちらも溶解している。高度成長はとうに終わり、バブルははじけ、大手企業が相次ぎ倒産した。家族は、離婚の増加、晩婚化などによって、明らかにかつての「理想型」とは変質している。よって、われわれは自らのアイデンティティを持つことはできない。消費がアイデンティティに結びつくこともない。今や、消費者は自ら物語を創出しなければならなくなったのである。

言うまでもなく、「自分らしさ」もまたひとつの「小さな物語」である。しかし現実にはその「自分らしさ」という物語を十全に生きることのできる消費者ばかりでない。いや、そうではない消費者のほうが多いのは当然だ。

・・・こうして80年代は物語作りのためにマニュアル本の「ポパイ」や「JJ」が全盛期を迎え、中でも「ホットドッグプレス」はデートやセックスの仕方までマニュアル化していきます。

ファッションなどは所詮いつでもマニュアル的なものではないかという人もいるかもしれませんが、しかし、たとえば60年代のジーンズやミニスカートは、単なる流行を超えて、若者、女性の自由、解放という、それはまたそれでひとつの「大きな物語」を担っていた。それに対して、現代のファッションにはそんな「大きな物語」は存在しない。むしろ今のファッションは、太った自分や背の低い自分や色の黒い自分といった、無数の個別の「小さな自分」の「小さな物語」のための道具としてしか存在していないようにすら見える。

しかし、マニュアル化傾向が極限まで進むと当然のことながらマニュアル通りに生きる自分と、それに満足のできない自分との間に分裂が生じ、「自分探し」ブームが拡大することになる。

そして不安な心理状態は概ね3つの消費行動を生み出すことが考えられる。第1は「消費中毒」である。不安であるが故にますます物の消費を通して自分探しを行うことになります。消費者の自分志向に気づいた企業は、消費者とともに自分らしさ探し訴求との共犯関係によって、ますます「自分らしさの神話」が増殖していった。不安な消費者がとる第2の行動は「永遠志向」である。具体的には、海外高級ブランド志向がそれにあたる。海外高級ブランドは、消費者の自分らしさに近づくのではなく、消費者がブランドらしさのほうへ近づくべきだという態度を保持している。自分らしさなどという「ぬるい」次元を超えた絶対的なものとしてブランドは君臨する。不安な現代人は、高級ブランドが生み出す永遠性という強力な物語に惹かれるのである。不安な消費者の第3の行動は「自己改造志向」である。それは、高級ブランドであれ何であれ物を消費するだけでは所詮自分らしさやアイデンティティは実現できないことに気づき、逆に自分自身を変えようと態度であり、内面的な自己改造と外面的な自己改造の2つの方向がある。自己啓発、稽古事、茶髪、ピアスなどです。

本書の中心だけを紹介しましたが、私が大学時代に勉強した「アメリカにゼーション」は、ユーミン(松任谷由美)を通して語られます。

また、最近でもないですが、ギャルやヤマンバ女子高生のインタビューを通して、おじさんの私が知らない世界を垣間見ることもできます。

三浦展ファンの方には、おさらいになるかも知れませんが、三浦流の社会の捉え方を再認識できる本です。

「自由な時代」の「不安な自分」―消費社会の脱神話化 Book 「自由な時代」の「不安な自分」―消費社会の脱神話化

著者:三浦 展
販売元:晶文社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 日経MJトレンド情報2007 | トップページ | ゴールデン・サイクル »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/110149/4306830

この記事へのトラックバック一覧です: 「自由な時代」の「不安な自分」:

« 日経MJトレンド情報2007 | トップページ | ゴールデン・サイクル »