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2006年11月 3日 (金)

新平等社会

「新平等社会」 -「希望格差」を越えて-  山田昌弘

このブログでは、よく格差問題を取り上げています。著者の昔からのパラサイトシングルものを社会の切り口が鋭いと思いながら興味深く読んでいました。また、昨年は、「希望格差社会」もベストセラーになるとともに「希望格差」が流行語のひとつになったほどです。ただ、私が格差問題に興味を持っているのは、他人事とは思えないからです。今は普通の会社員ですが、会社の中でも格差が広がっていることを感じていますし、いつ自分がどうなってもおかしくない状況です。また、現代の問題としてではなく、自分の父も大変まじめに働き続けましたが、ずっと社会の底辺近くで暮らしながら私を大学までやってくれました。曲がりにも、私は大学卒業後、会社員となりこれまでは安定した生活ができているのです。

最近、景気の上向きとともに採用も増えてきているとは言え、非正社員になる人も多く存在しています。非正社員の生涯賃金は正社員より最大2億円少ないとされています。望まずして非正社員となった人々が道を絶たれ、非正社員と理由で評価されないなら、貴重な働き手が戦力に育たないことにもなります。

本書では、これまでの世の中の議論をよく整理しながら格差問題を著者なりに語ってくれます。私も相当、格差問題について本を読んできましたが、本書ほど、核心を突いているだろうと思った本に出会ったのは初めてです。収入などの格差は問題にすることは重要な点であり、それは数字で示され議論できますが、格差が世代間に引き継がれ、教育の場にも意欲の格差を考えないといけないことなどよく解説されています。

現在は格差を語る上ではジニ係数などの数字が議論され、所得格差などに議論が行きがちですが、著者は、格差の「質」が変化したことが問題だと言います。つまり、「日本において格差は拡大しているか」という問いは、実は、無意味なのです。実際に格差が拡大した領域もあれば(例えば、若年男性の収入)、現実に格差が縮まった領域(男女の正社員賃金格差や高齢者の所得格差)もある。正確には、「どこにどのような格差が新たに生じたか」という問いに置き換えるべきだと。

国会で格差問題が取り上げられたとき、小泉前首相が「格差があって何が悪い」といいましたが、著者はこの言葉に肯定的です。人間が自由に行動すれば、格差は必然的に生じてきます。全ての人間は同じ能力を持って生まれてくるわけではないし、育つ環境も異なるし、運や努力も影響します。だから、格差が出現すること自体はよいことでも悪いことでもないが、格差がもたらす結果については注意しなくてはならないと言います。市場に限らず、人間が自由に行動する結果として格差が生じるなら、格差の出現は避けられない。近代社会においては人間の自由性を否定することはできない。しかし、結果として出現した格差が社会的に望ましくなければ、その生じた格差を是正するように社会全体で対処しなければならない。そうしなければ、自由な活動の前提である社会の秩序が保てなくなり、かえって、自由な活動に対する反感が増すだろうと。

(中略)

格差拡大の原因は何でしょうか。政治の世界では民営化など経済改革のせいにする議論もありますし、不況がフリーターなどを作ったという考えもあります。しかし著者は、現在日本に進行している格差拡大現象は、「構造的かつ世界的」なものだと言います。その原因のひとつは1997年の金融危機をきっかけにして、日本経済、社会構造は大きな構造変化の時代に突入したこと。もうひとつは、格差拡大は、世界的な傾向であり、特に欧米の先進諸国では英米だけでなく、北欧を含めたほとんどの国で格差拡大がここ20年の間に起きているのだと。景気が良い国でも、福祉政策が充実していてもいなくても、政権がネオリベラリズムであろうと社会民主主義であろうと当初所得の経済格差が拡大しています。

現在の格差問題の解決が容易でないのは、経済格差を作り出す原因が「不当」なものではなく、むしろ、自由で民主的な社会にとって、「望ましい」とみなされることから生み出されているからです。収入の格差が生じるのは、効率的で、選択しの多い経済の結果であり、家族における格差が生じるのは、自己実現的で多様な家族が許されるようになった結果なのです。それゆえに、格差を作り出す原因と出現した格差を区別して評価する、市場による配分原理と、市場による配分成果の原則をもとにして、結果として生じた格差がどのように社会的影響を与えるかを考察しなければならないのです。

著者の真骨頂である希望格差の問題があります。

問題は、経済格差そのものにあるわけではない。更に言えば、貧困そのものにあるわけではない。一時的での大きな収入格差があっても、一時的に貧困であっても、それが、それが直接不幸をもたらすわけではない。今、生活水準が低くても、将来豊かになることが確実なら人は幸福を感じることができるに違いない。

その一つの手がかりが「希望」の社会心理学なのです。「希望とは努力が報われると思うときに生じる、絶望は努力してもしなくても同じだと思う時に生じる」という社会心理学があります。

努力が無駄だと思う機会が増えれば、絶望感が人生を支配するだろう。人々の感情は、自分の意志では持つことができないものである。希望を持てと言っても持てるものではない。そして、この希望が多くの人に分けて持たれているかどうかが、社会が活力をもち、持続可能であるかどうかの鍵であるのです。いくら一部の人が幸せに人生を送っていたとしても、同じ社会を構成する他の人間のかなりの部分が希望をもてない環境に放置されるなら、社会全体の活性は失われ、秩序は不安定になる。つまり、希望を持てなくなった状態は、本人にとって不幸であるばかりでなく、社会全体にとって大きな損失状態である。つまり、社会のあり方が、希望を持てない人を作り出してしまうなら、それは、大きな外部不経済となって、社会に跳ね返ってくる。

希望格差を3つのタイプに分けて考えると、①努力しても仕事能力が身につかず生産性が上がらない、②努力して生産性を上げても収入が増えない、③努力しても生活水準が上がらない。これが希望を失わせる要因である。ニューエコノミーは、従来のスキルアップ型の職を不要にし、大量の定型作業労働者を必要とします。現代では企業が破綻したり、人員削減したり、契約社員にする中で、社員から見れば、真面目に勤めていても、その努力が報われず、会社から放り出されてしまいます。今まで会社にいてスキルアップして会社に貢献した努力が無駄になったという希望喪失です。それをもう一度一からやり直すのは、心理的に耐え難いものです。仕事というのは、単に収入源という意味以上に、人間のプライドを構成するからです。

仕事で真面目に努力しても報われない人が多くなって来ていますが、世代間でも同様です。子供を育てても自分より上級の学校に行けるとは限らないし、自分より良い職に就けるとは限らなくなっています。結果として、勉強する子としない子の格差が拡大しています。近年学習時間の低下が見られ、かつ偏差値が低い学校ほど学校以外での勉強時間の格差が拡大、勉強する努力をあきらめる生徒が増えることがわかります。

(中略)

著者は格差をなくす方法として、底抜けにならない方法を検討しています。それは本書を読んでください。

それだけでなく、タブーとされていた女性の意識(仕事と家庭の問題とか)も書かれていますので、読みたいこと、てんこもりです。

とにかく、大推薦の本ですので、是非とも買って読んで欲しいです。

(もう少し長い文章を読んでも言い方は、こちらへ)http://plaza.rakuten.co.jp/rei123rei123rei/

新平等社会―「希望格差」を超えて Book 新平等社会―「希望格差」を超えて

著者:山田 昌弘
販売元:文藝春秋
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