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2006年11月18日 (土)

アメリカの不正義

「アメリカの不正義」-レバノンから見たアラブの苦悩- 天木直人

著者の天木氏は、前駐レバノン特命全権大使で、イラク戦争を機に、本省と対立し、外務省をほとんどクビになるように追われた人です。そのイラク戦争批判から外務省批判を行った著書が「さらば外務省!」であり、ベストセラーにもなりました。

本書は、そのベストセラーとは趣を異にして、2001年2月から2003年8月まで、レバノンで過ごしたことを日記のように、穏やかな心情で述べられています。

中東情勢を勉強されている方は、トーマス・フリードマン(「レクサスとオリーブの木」や「フラット化する社会」の著者)がニューヨーク・タイムズの記者として「ベイルートからエルサレムへ」という大作を読まれた方もいらっしゃるでしょう。それを読まれた方には、少し物足りなかいかも知れませんが、フリードマンの大作を読むにはしんどいという方には読みやすい中東物です。(そもそもフリードマンの本はものすごく良い本なのですが絶版となり今や図書館でしか読めませんが)

みなさんはレバノンにどんなイメージを抱かれているでしょうか。最近は、ヒズボラとイスラエルとの戦争の戦場となってしまったニュースはご存知でしょうし、その昔、キリスト教徒やイスラム教徒との間で内戦が続いていた国というイメージをもたれていますかね。それとも、ビジネスパーソンの方なら、日産・ルノーのゴーン社長を思い出しますかね。旅行好きの人にとっては、「中東のパリ」と呼ばれて美しい街だったことをイメージされますか。

日本人にはイメージの薄い国かも知れませんが、レバノン人はきわめて親日的だそうです。報道でもイスラエルとの戦争での悲惨な状況があれば、テレビなどで見ることはあっても、それ以外ではお目にかかることは少ないと思います。特に、政府も日米同盟を基軸とした外交を展開しますので、余計に日本人の関心が少ないと思います。

レバノンの国民の大多数はシリアがレバノンを事実上支配していることを知っているそうです。そしてこれに強い憤りを持っています。しかし、シリアの仕返しをおそれて誰も公言はしないそうです。国際社会もこの異常な関係に目をつぶり続けています。レバノンの中にシリアの支援を受けたヒズボラが存在していますし、前天木大使は、ヒズボラとイスラエルの戦争をこの時期に予言しています。

レバノンというとキリスト教やイスラム教のモザイク国家でもあります。1932年フランス統治下の時代に国勢調査が行われ、キリスト教徒とイスラム教徒の比率は55対45とされました。単に2つの宗教があるというだけでなく、キリスト教ではマロン派が29%、ギリシア正教が9%、ギリシアカトリックが6%、イスラム教徒ではスンニ派が22%、シーア派が20%、ドルーズ派が7%ということになっています。そのほかにも、アルメニア正教、アルメニア旧教、ローマンカトリック、プロテスタント、アラウィ、クルド、コプトなど日本人には名前の知らない宗派が18あり、レバノンを構成しているそうです。キリスト教優位の権限配分は、32年の国勢調査によるもので、現在は、明らかにイスラム教徒の人口が明らかだそうですが、国勢調査が行われずに、このことも75年からの内戦の遠因になっています。

著者が大使をしている間に、レバノン人が折りに触れ日本を称賛し好意的な感情にあいます。それは戦後復興から世界第2位の経済大国になったことや、勤勉で優秀な国民でありこと、近代化の一方で古い伝統をよく保持していること、高い道徳性を持っていることなど、が言われるそうですが、著者もレバノン人の抱くイメージは、本当は失われつつあるんだよと思ったそうです。ただ、レバノン人が日本人に共感を覚えるのは、カミカゼだそうです。イスラエルに対してパレスチナ人は最後の手段として自爆テロで応酬していますが、これがカミカゼ精神に擬せられているようです。ヒズボラの総裁から「我々はその崇高な自己犠牲の精神から学んだ」と言われたそうです。(これは絶対に見習って欲しくないですよね)

本書は、レバノンの中での歴史教科書問題や政治の腐敗なども、レバノン国内に居る立場から、いろいろと説明してくれています。2003年12月刊行の本なので、話としては、少し古いですが、中東情勢を知る手がかりになると思います。

Book アメリカの不正義―レバノンから見たアラブの苦悩

著者:天木 直人
販売元:展望社
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