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2006年12月 9日 (土)

格差社会

「格差社会」何が問題なのか   橘木俊詔

最近、格差問題ではテレビにもよく登場される橘木さんの最新著書です。著者は、98年に「日本の経済格差」を書いたことが、日本での格差問題の嚆矢になったのではないでしょうか。05年の初めには、格差問題の著書が多く出て、今年06年1月に内閣府が、格差の拡大は日本が高齢化していることによる「見かけ上の問題」とする見解が出て、より一層の論争が繰り広げられています。

本書では、格差の何が悪いのかを真摯に語ってくれます。テレビで見るだけですが、頑固そうな中に物静かで、本当にまじめに格差の問題と解決策を考えていることが伺えます。

2004年末に発表されたOECD調査で、再配分後所得のジニ係数でみると不平等の高い国になっていました。前回の調査では中程度でしたので、不平等が確実に高まっているとします。日本は、不平等度が高いアメリカやイギリスのような新自由主義という思想を基本においた経済体制をとっている国と同じになっていました。

不平等が拡大するということは何を意味しているのでしょうか。一つには豊かな人の所得がさらに上がり、貧しい人がますます貧しくなるという側面。二つ目には、豊かな人と貧しい人の数が相対的に増加する側面です。日本においては、双方の側面が見られます。しかし、特に貧困者の問題が深刻化しているというのが著者の見解です。

実際の生活保護を受けている世帯は、96年が61万世帯、04年が100万世帯、05年が105万世帯となっています。

貯蓄の側から見ても、貯蓄のない世帯がここ15年で非常に増えています。貯蓄のない世帯が、70年代から80年代後半にかけて5%あたりで推移していたものが、05年には22.8%にまで急激に上昇しています。貯蓄ゼロとはまったく余裕のない状態です。

また、自己破産する家計も増えています。95年が4万件でしたが、03年には24万件へと6倍に増えています。

さらに絶対的貧困を測る指標としてホームレスの数です。六本木ヒルズ族のような大金持ちが目立つ反面、街を歩いているとホームレスが目立つようになっています。東京都のホームレスの推移を見てみると、90年代末から2000年にかけて3000人から6000人に倍増しています。

相対的な貧困については、国によって基準が違うので国際比較が難しいのですが、OECDの調査で驚くべき事実が出てきています。日本の貧困率が先進国では、アメリカ、アイルランドの次の貧困率です。相対的貧困率についても、80年代は11.9%だったのが、現在、15.3%にまで増えています。

格差は見かけなのかというのは、始めに内閣府の調査からの始まりです。内閣府では、この統計の根拠について、第一は、日本の少子高齢化が進んでいる状況だということ。第二に、家族構成の変化を指摘しています。高齢単身者と若年単身者のふたつの層を中心に数が増えていること。これらによって、統計上格差が広がったというのが内閣府の説明です。しかし、著者は確かに高齢単身者において非常に増加しています。これを「見かけ」とするのであれば、この高齢単身者という貧困層が増えたことを同考えるのかと著者は憤ります。

さて、「平等神話」崩壊の要因とは何でしょう。

日本社会において格差が拡大した要因はいくつか考えられますが、その一つに長期不況の影響があります。最近は低下傾向にありますが、失業率は一時5.5%という戦後2番目の高さにまで達しました。当然、失業率が高くなれば、貧困層も増えて格差が広がることになります。

長期不況がもたらした要因のもう一つ重要なのは、雇用システムの変化です。それは非正規労働者の数が非常に増えたことです。95年、正規労働者は3779万人、非正規労働者は1001万人でしたが、2005年には、正規労働者が3374万人、非正規労働者1633万人です。この10年間に正規労働者が400万人減り、非正規労働者が630万人も増えたことになります。このことは格差拡大の重要な要因です。それはなぜか。第1に、正規労働者と非正規労働者の間には、一時間当たりの賃金に格差が存在します。非正規労働者の賃金は、正規労働者の6割から7割と言われています。第2に、非正規労働者というのは、パート労働者に見られるように労働時間が比較的短いということがあります。一時間当たりの賃金が低い上に、労働時間が短く、総賃金の額が低くなってしまいます。第3に、非正規労働者というのは雇用が不安定です。派遣労働者などは、雇用期間が終われば、次の仕事が見つからない限り即失業者です。不安定な立場におかれている非正規労働者が増えれば、それは格差の拡大につながるわけです。

なぜ、近年、非正規労働者が増えたのでしょう。第1に、企業にとっては、労働コストの削減につながります。第2に、非正規労働者の多くは、社会保険制度に入っていません。このことも企業側にとってはメリットがあります。通常、社会保険は、事業主と労働者での折半の負担となりますので、企業側としては非正規労働者を増やしたい要因となります。第3に、企業から事業不振の時に労働コストを削減しやすいように非正規労働者を雇うメリットがあります。第4に、企業が繁忙期だけに雇えるメリットがあります。

重要なのは、本人はフルタイムの労働者を望んでいるのにもかかわらず、企業が非正規雇用のメリットにこだわって、フルタイムで雇ってくれないということが、実際に少なくないということです。

非正規労働者だけでなく、正規労働者の問題もあります。サービス残業をしていない人はいますか。当然、違法行為ですが、もし、サービス残業が厳しく禁止されるなら、企業は正当な賃金を支払うか、新しい人を雇って雇用を増やさざるを得なくなります。正規労働者のサービス残業が減らないことも、非正規労働者が減らないことにつながっているのです。

このほかに、公平な評価もできないのに成果主義を導入したことなども取り上げています。

さらに、マクロ的には、構造改革の負の面も取り上げています。著者は競争による経済効率を高めることには反対しませんが、Winner-Take-Allではなく、敗者への再配分モデルを作ることを提案しています。

著者は、単に現状を細かに観察しているだけでなく、マクロでもなぜ貧困を放置すると、貧困者が困るだけでなく、社会全体が困るのかについて解説をしてくれます。

長くなるので、興味がある方は、一読してください。

格差社会―何が問題なのか Book 格差社会―何が問題なのか

著者:橘木 俊詔
販売元:岩波書店
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投稿: toshiki | 2006年12月10日 (日) 17時57分

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