« 日本のポップパワー | トップページ | Dolce ドルチェいろいろ »

2007年3月17日 (土)

悪夢のサイクル

「悪夢のサイクル」  内橋克人

内橋氏といえば、規制緩和などネオリベラリズムに対して批判的な立場で、よくテレビでも発言されています。その立ち位置は常に弱者の立場に立って発言されています。私は、どちらかというと官僚支配や規制による既得権益者の排除に賛成をする方ですが、やはり、なんでもかんでも自由ではいけないでしょうし、それを内橋氏は舌鋒するどく指摘します。

さて本書を紹介しましょう。
格差問題が騒がれますが、先ず数字を。1970年代、所得階層の上位20%総所得と下位20%のそれとを比較したとき、その差は約10倍にすぎませんでした。ところが、1980年代の後半にはそれが20倍にになって、現在はどうかというと、168倍にもなっています。
1億円以上の資産をもつ日本の富裕層は年々増え続け、今日では141万人。世界の富裕層の16.2%を占めるといわれています。
一方で、かつては中流の暮らしを楽しんでいた家族は中流から脱落し、ギリギリの生活をしている状態です。OECDの調査では、日本はOECD加盟国中ワースト5の数値であると報告してます。
また、厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、日本の1世帯あたり年間所得の中央値は476万円。その半分238万円以下の所得で生活する人々が、日本には6.5世帯に1世帯あるという計算になります。
正規雇用者が減り、非正規雇用者が増えていますが、労働力調査などによる平均年収の計算では、正規雇用者454万円に対し、契約・嘱託250万円、派遣社員204万円、パート・アルバイト110万円と大きな開きがあります。
30年前であれば、公立小学校のクラス40人の父親の職業を聞けば、自営業以外は、全員が会社員だったはずです、ローンを返済しながら家族と家を守るお父さん。でも今は違います。失業中であったり、厳しい条件の派遣労働で家計を支えていたり、子供が就学援助を受けたりする家庭がクラスにいくつもあります。
我が家でもそうですが、小学生の子供は私立の中学を目指して進学塾に通っています。(経済的に私立にいけるかどうかは微妙ですが) 進学塾にしても私立の中学の年間授業料にしても約100万円、トヨタなどが出資してエリート養成の中高一貫校では、寮費込みで年間300万円です。
これは、実に重要なことです。富裕層のみ、私立進学の道が開かれているということは、結果としての平等だけではなく、機会としての平等も今日の私たちの社会は失っていることになるからです。
我が子の受験で感じていますが、私立中学の場合、平均して週に最低6時間以上の英語・数学の授業がそれぞれありますが、公立中学の場合、2002年度の指導要領の改訂以来、それぞれ週3時間の授業しかありません。貧乏人は勉強の量も少ないということでよいのでしょうか。

どうして今日のような社会の姿になっていったのでしょうか。私たちは1970年代以降に我々の気づかないうちにさまざまな政策の変更がなされていったと著者は言います。
1960年代、アメリカの傍流経済学者であったフリードマン等の学者の頭の中で生まれました。
特に、80年代後半に日本にアメリカから押し寄せてきます。「内需拡大」「内外価格差是正」「規制緩和」「努力が報われる社会」「構造改革」・・・その時々にキャッチフレーズを変えながらそれはやってきたのです。多くの人々がその政策変更の本当の意味をしらないままにやってきたのだといいます。

変化はまずアメリカで起こります。レーガン時代です。政策変更は大きく分けて3つあります。1.規制下にあった産業を自由化する。2.累進課税をやめる。3.貿易の自由化。そしてアメリカのミドルは一部の富裕層とそれ以外に二極分化が進んでしまい、上へ行くのはわずかで、下へ下へと吐き出されていく。かつて、戦後日本人があこがれたアメリカの中流層は、80年代に急激にやせ細り、低所得層へと吐き出されていく有様がはっきり見て取れます。
アメリカでも規制緩和が始まるまでは、ひとつの会社にずっと勤め続けるという、日本的な終身雇用に近い境遇が普通に見られました。
規制緩和による競争の激化を理由に多くの従業者を解雇し、残った従業員に対しても給与カットなどの賃金水準切り下げ、長時間労働など労働条件の悪化を強要しながら、経営者だけは100万ドル近いサラリーを得ていきます。働く人々の生活水準は劇的に低下し、経営者と株主、投機家という一握りの強者が莫大な富を手にする。それが規制緩和によってアメリカで起こった現実です。
日本で今、起こっていることがアメリカの歴史を見ればわかるでしょう。

税制のフラット化も日本がアメリカに追随した変更したルールです。累進課税制度は第二次世界大戦後各国で採用され、各国は累進課税制度による所得再分配機能を通じて、厚い中流層をもった社会を目指してきました。アメリカやイギリスでは税のフラット化が進んでいます。これは富裕層に対する減税政策であり、中流階級への減税はほとんどありません。一方で消費税は増えています。つまり貧乏人はなけなしの金を吸い上げられ、金持ちは自由になる金をふんだんに与えたことになるのです。
ただ、この問題は日本国内だけ、累進税方式に戻しても世界がそうなっている中、グローバル化の中では、富裕層や企業が海外に移ってしまうということにもなり、なかなか難しい問題です。

それでは私たちは、どうすればよいのでしょう。
まさか、国家が経済を計画する社会主義の失敗は歴史が証明しています。だからといいって自由放任で規制緩和をいくら追い求めても完成はありません。
著者がはっきり言っているのは、「人を市場に合わせる」のではなく、「市場を人々に合わせて調律する」ことだといいます。市場というのは否定すべきものではありません。かといって野放しにして良いものでもなく、市民社会的制御のもとに市場メカニズムを置くべきだという議論になるわけです。

目を日本という国をありように向けるなら、グローバリズムの名の下にITマネーに支配される「虚の経済」に適応してゆくのではなく、実需と生産、勤勉と労働に基づく「実の経済」をめざし、国家としての足腰を鍛え、虚の経済に立ち向かっていく必要があります。
経済中心ではなく、人間中心の、持続可能な街づくり、環境を守ること、金銭のやり取りだけではない、人間同士の関係を深めてゆくケアモデルの確立が必要だと。

悪夢のサイクル―ネオリベラリズム循環 Book 悪夢のサイクル―ネオリベラリズム循環

著者:内橋 克人
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する


にほんブログ村 経済ブログへ

|

« 日本のポップパワー | トップページ | Dolce ドルチェいろいろ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/110149/5719695

この記事へのトラックバック一覧です: 悪夢のサイクル:

» シトロエンC1って何かに似てるなぁ��� [日々良好]
以前、日本未発売のプジョー107に一目惚れしてしまったという話をしましたが、なんと、こいつにそっくりな車があったのですよ!シトロエンのC1という車です。欧州では2005年にお目見えしたそうなのですが、お恥ずかしながら私、つい最近までこのC1という車... [続きを読む]

受信: 2007年3月17日 (土) 16時11分

» ベントレー自動車の基本情報 [ベントレー 自動車]
イギリスの高級車・スポーツカーメーカーのベントレー自動車に関する内容を紹介したいと思います。 [続きを読む]

受信: 2007年3月17日 (土) 17時21分

» 平均年収 [平均年収]
平均年収 [続きを読む]

受信: 2007年3月18日 (日) 13時16分

» ベントレー自動車特集 [ベントレー自動車特集]
ベントレー(Bentley)は、イギリスの高級車・スポーツカーメーカー... [続きを読む]

受信: 2007年3月29日 (木) 17時39分

« 日本のポップパワー | トップページ | Dolce ドルチェいろいろ »